小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

「完全ワイヤレスヘッドホン」に注目せよ!

※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2016年3月4日 Vol.072 <新世代をこじあけるテクノロジー号>より

earin

 
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以前本メルマガでも、2015年に買ってよかったもの、として挙げさせていただいた製品に「EARIN」がある。

・左右の耳の間もワイヤレスになった「EARIN」。手前の小さな黒いものを左右の耳にいれる。奥の金属の筒が充電と持ち運びに使うクレードルだ。
https://dl.dropboxusercontent.com/u/75917465/kn072/earin.jpg

・日本代理店モダニティの製品ページ。現在人気が集中し、市中在庫は少なくなっているようだ。日本での実売価格は3万2000円程度で、ちょっと高めだ。
http://www.modernity.jp/brand/earin/earin/

この製品はいわゆるBluetoothヘッドホンだが、ヘッドホンと再生機器の間だけでなく、左右の耳の間からもケーブルを取り去った、「完全ワイヤレスヘッドホン」である。この3カ月ほど筆者は、これをかなり気に入って使っている。

完全なワイヤレスになるということは、それだけ自由である、ということだ。「その程度で……」と思っていたのだが、これがすごく違う。ケーブルが手や体に触れる際に出るタッチノイズがなくなること、ケースへしまう時にケーブルが絡む可能性が一切ないこと、そして小さいことなど、気軽に使うには最適な要素が網羅されている。EARINの場合、イヤーピースによって外耳道を塞ぐ、いわゆる「耳栓」としての効果が高く、地下鉄のノイズが気になりにくい、ということもある。Bluetoothヘッドホンとしての音質は「中の上」くらいで、素晴らしくいい、とまでは言えないが、タッチノイズのなさや耳栓効果の高さも加味すれば、音質には十分満足できる、といっていい。

こうした「完全ワイヤレスヘッドホン」はEARINだけではない。たとえば、独Bragi社の「The Dash」もそのひとつ。EARINが通話や曲送りなどの機能もない、シンプルな「音を再生する」だけの製品であったのに対し、The Dashは防水・防滴で心拍センサー・モーションセンサー・タッチセンサーを備え、マイク内蔵で通話もできる「万能型」だ。マイクからの音と音楽をミックスし、「周囲の様子を確認しつつ音楽も聴ける」ため、海外では、耳栓的なEARINよりも安全である、との評価もある。

・Bragi社の「The Dash」。画像は公式サイトより。表面がタッチセンサーになっていて、曲送りなどの操作にも対応。心拍センサー内蔵で、フィットネスを強く指向している。日本向け代理店が決まった、との噂もあり、近日中には日本でも取り扱いが開始されるかも?
https://dl.dropboxusercontent.com/u/75917465/kn072/bragi.png

スペック面ではThe Dashの完勝だが、サイズが小さいこと、デザインが洒脱であることなど、EARINにも利点はある、というのが筆者の見立てだ。

こうしたものは、すべてBluetoothで再生機器とつながる。一方で、右耳と左耳の間をどうつなぐのかが工夫のしどころである。Bluetoothヘッドホンを使ったことがある方ならおわかりだと思うが、そもそもBluetoothが使う2.4GHzの帯域は混み合っていて、道路沿いや人が多い場所では切れやすい。左右の通信も必要な分、必要な通信量が増大するため、そもそも「完全ワイヤレス」は不利なのだ。

問題は、頭をまたいで通信することにある。脳は水袋のようなものだから、電波が非常に減衰しやすい。強い出力を出すとバッテリーが持たず、だからといって弱くしすぎると通信が安定しないので不快になる。どれもクラウドファンディングを経て出てきた製品だが、製品版に向けたクオリティアップでは苦労したようだ。

今後こうした製品が増えるとみられる裏には、アップルなどの大手が似たものを開発中……との噂もあるからなのだが、噂は噂としておこう。それよりも、「完全ワイヤレス」を開発するための技術要素が揃ったことが大きい、と感じる。

EARINはBluetoothとバッファリング技術を使っているため、再生に0.5秒の遅延があって、動画やゲームには向かないという欠点がある。だが一方で、ハードの小型化は容易である。シンプルな耳栓形状になっているのは、技術的特性をデザインに生かしたからだろう。ヒントは出たので、フォロワーも増えそうだ。

一方The Dashの通信には、BragiとNXPセミコンダクターズが共同開発した「近距離磁気誘導(NFMI)」が使われている。これは補聴器で使われているものの改良版である。NXPセミコンダクターズは2016年4月に同技術用LSIの量産出荷を開始するため、これを採用すれば「完全ワイヤレスヘッドホン」が出来上がることになる。逆算すれば、今年の秋から年末にかけ、完全ワイヤレスヘッドホンが増える……ということになるので、ちょっと気にかけておいていただければ幸いだ。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2016年3月4日 Vol.072 <新世代をこじあけるテクノロジー号> 目次

01 論壇【小寺】
 ドローン第二楽章始まる、のか?
02 余談【西田】
 「完全ワイヤレスヘッドホン」に注目せよ
03 対談【西田】
 鈴木淳也さんに聞く「ITと決済」の今(4)
04 過去記事【小寺】
 来年には4K放送開始って、ホント?!
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと
12コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。   ご購読・詳細はこちらから!

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