高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

閉鎖性こそがグローバル時代の強みにもなる可能性

高城未来研究所【Future Report】Vol.526(2021年7月16日発行)より

今週は、姫路、豊岡、岡山と移動しています。

深い山々を隔て、太平洋側と日本海側で天気がまったく異なるこの地域には、閉ざされた谷間の村で長く守られた文化がいまも色濃く残っています。

なかでも但馬は、但馬海岸道路が開通するまで船で移動するか、海岸沿いの険しい山道をつたわないと訪れることができない場所が多くあり、壇ノ浦の戦いに敗れた平家が根を下ろしたことから平家の伝承が根づいています。
毎年夏になると平家由来の古い祭りや民俗芸能が開催されており、世界から注目を集める但馬牛の繁殖地としても知られています。

神戸牛や松坂牛の素牛として知られる但馬牛の歴史は、いまから200年ほど前、前田周助という、たったひとりの「牛オタク」から始まりました。
平家が開墾したと言われる但馬の山間にある谷の小さな村で暮らしていた前田周助は、親戚や姉の嫁ぎ先、さらには奥さんの実家にまで借金をして牛を買い求める稀代の「牛オタク」で、子牛の生まれた場所や日付、所有者、父牛、その特徴まで牛すべてのデータベースを作成。
その中で、良い母牛からは、良いメス子牛が生まれることを発見します。
そしてついに、「但馬牛」の基礎となる母牛を作り上げることに成功するのです。

こうして、「但馬牛」は地域を超えて大評判を呼びます。
ところが、金儲けを企む人たちは小柄な「但馬牛」を外国の牛のような体格の良いものに改良して肉量を増やそうと外国種のオス牛を輸入して交配させますが、見事に大失敗。
気がつくと「但馬牛」は、明治時代後半に純粋種が姿を消す絶滅危惧種になってしまいます。

ここで、「但馬牛」二人目のレジェンド田尻松蔵が現れます。

田尻松蔵は、山深い谷間にある小さな村をまわって、外国種や他の血統との交配を免れ、前田周助が作った「但馬牛」の雌牛を4頭だけ発見。
標高700mもある高地で、他の村からも遠く離れた場所にあったために雑種化を免れることができたこの4頭を中心に、新しい血統の基礎作りを始めました。
この田尻松蔵が作った但馬牛「田尻号」が、現在、全国で飼育されている黒毛和種の繁殖雌牛のうち、99.9%の血統としてつながっているのです。

黒毛和牛のミトコンドリア・イブ田尻松蔵の但馬牛「田尻号」。
深い山間の村を巡ると、その秘密は良い水を中心としたエコシステムにあると感じる一方、閉鎖性こそがグローバル時代の強みにもなると再考する今週です。

夕日に映える水田が綺麗です!
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.526 2021年7月16日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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