※名越康文メールマガジン「生きるための対話(dialogue)」2015年2月2日 Vol.093より
人間関係を良好に保つという意味でも、また自分が学び、成長していくためにも、「人の話を聞きなさい」ということは良く言われます。
しかし、「人の話を聞く」ということには、実は一筋縄でいかない、困難な問題が横たわっています。というのも私たちは人の話を聞くとき、多くは「自分の話」を聞いているからです。言い換えれば、私たちの耳から入った「相手の話」はほとんどの場合、無意識のうちに脳内に作り出した自己実現の肥として消費されてしまっているのです。
驚くべきことですが、人間のコミュニケーションの現場では、少なからずそんなことが起きてしまっているんですね。
「かわいそう!」
「わかる! そういうことってあるよね!」
という瞬間的な共感のほとんどは、相手の境遇に感情移入したものというよりは、自分の弱さや、抱えている問題を相手にそのまま投影している(=自己投影)だけなんです。
ですから、自らの中にある弱さを自覚しない限り、その弱さは必ず、他者に投影されることになります。例えば相手の話を聞いたとき、そこにあなたが「ずるさ」や「卑劣さ」を見いだしたとすれば、そのほとんどは、自らの弱さを、相手に投影した結果生じた幻影であると考えたほうが良い、というわけです。
人の話を、本当の意味で「聞く」ためには、私たちは自己投影をやめ、感情移入(異質なものへの共感)の段階に進むことが必要です。しかし、それができる人は本当に稀です。人はそれだけ、眼前の事実を、事実として認めることができないのです。
例えば私たちは、自分の理解の枠組みを超えた情熱を持つ人を目の前にすると、奇異に感じるか、あえて軽んじようとしがちです。なぜそうなるかといえば、結局のところ、自己投影しづらいからです。次第に、私たちは自己投影しづらい相手や言葉(本)を遠ざけるようになります。
しかし、そういう人や言葉に触れたときこそ、自己投影を卒業し、感情移入(異質なものへの共感)の段階に進むことが求められるのです。それだけが、自分を超える、唯一の道なのです。
最近僕は、大乗仏教の仏典をこつこつと少しずつ読んでいます。そこにはあまりにも途方もないスケールで、想像もつかないぐらい荒唐無稽なことが書かれているように感じます。しかし、それを荒唐無稽だと感じているのは、自己投影から抜け出すことができていないからなのです。
つい自己投影してしまう自分から抜け出して、いかに、対象に感情移入していくか。それを考えることがおそらく知性であり、智慧の始まりなのです。
名越康文メールマガジン「生きるための対話(dialogue)」
目次
00【イントロダクション】99パーセントの人が知らない感情移入の本当の力
01精神科医の備忘録 Key of Life
・真剣になるとは何かを捨てること
02【コラム】集中力と主体性を生み出す「心の時間割」(「心の時間割」を取り戻せ!<後編>)
03カウンセリングルーム
[Q1] これまでの性格分類本と体癖論の関係は?
[Q2]この怒りは「不動明王の怒り」?
[Q3]なぜ愛する人の不幸を願うのか
04読むこころカフェ(29)
・『最強のふたり』が教えてくれる「わかりあえない」ことがもたらす力
05講座情報・メディア出演予定
【引用・転載規定】
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