唐突な持込み
2012年4月某日、夜間飛行事務所で編集作業に勤しむイノウエに届いた1本のメールからすべては始まった。
イノウエ様
ご無沙汰しております。
I出版のTです。ちょっとご相談があってメールをしました。
私が習っている卓球の先生が、ご自分の理論を本かDVDにまとめたいということで相談がありました。ご承知のとおり、私のところではスポーツものは扱うのが難しいのですが、内容的にはとてもおもしろいもので、夜間飛行さんなら何らかの形でご検討いただけるんじゃないかと思い、ご相談しました。
突然のご相談なので「卓球? なぜ夜間飛行で?」とクエスチョンマークだらけかと思います。ひとまず、サンプルの映像があるので、ちょっと見ていただいて、ご感想をいただければ幸いです。
T
夜間飛行には毎日のように、さまざまな企画の持ち込みがある。しかし「卓球のDVDを作らないか」という持ち込みは初めてだ。なぜ夜間飛行で卓球なのだ? イノウエは混乱した。
もちろんイノウエ自身は、夜間飛行の仕事をメールマガジンの発行スタンドで終わらせるつもりはなかった。著者の、あるいはコンテンツの持っている可能性を最大限に引き出すこと。なにより「すごいもの」の「すごさ」をできるだけ多くの人に知ってもらうこと。そのためのビジネスモデル構築が夜間飛行の目的だと思っている。しかし夜間飛行はいまのところ、厳選された著者によるメールマガジンを発行する会社として見られている。その中で「卓球のDVD」はいかにも唐突と言えるだろう。
Tはイノウエと同年代の編集者で、同じ著者の担当者だったこともある。とある飲み会の席で、Tもイノウエも中学・高校時代に卓球部だったことを話したこともあった。
たぶん、「卓球経験のある編集者」ということで自分のところに持ち込んだのだろう。イノウエはそれほど大きな期待はせず、送られて来た動画のURLをクリックした。youtubeの限定公開設定されたその動画には、「ARP理論DVD企画試作ver1.0」とタイトルがついていた。
動画を見たイノウエはすぐにTの携帯電話に連絡を入れた。
(第二回へ続く)
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