「賽の河原」のような仕事
その人は私の知人の友人で、会社から派遣されてさまざまな事業所のコンピューターのシステムを管理しているそうだ。その人が、ある大手金融会社に派遣されたところ、噂には聞いていたそうだが、現実に現場に入ってみると、そこはどれほどの才能のあるコンピューターのプロでもどうにもならない状況になっていたとの事である。
私はこの業界の事はまったく不案内なので、よくは分からないが、何十年も前からコンピューターを導入して運営をしてきたその会社は、そのシステムの運用管理があまり上手くいっていなかったのだろう(もっとも、問題が起きている企業は少なくないという話もある)。
例えていうと、長年の間、旅館を取り敢えず建て増しし、ドアも前後の見境なく取り付けたため、開けたときに隣のドアとぶつかったり、通路が迷路のように入り組んでしまい、どうすればどうなるのか、全体像を誰も把握していないお化け屋敷のようなものが出来上がっていて、そこに何十年も前の今は誰も解読できないコンピューター言語が、時々システムの中を亡霊のように……というか、認知症の老人の徘徊のようにうろつきまわったりしているらしい。
一体そのシステムがどうなっているのか、どうすればどうなるか、という事は誰にも分からなくなっていて、とにかく最小限の事をして、システムの不具合が出る度にそこを何とか修正、機嫌をとりながらほぼ人力で運営しているとの事である。そうなると、そのシステムを見張って、それを直している人は、その仕事に対する情熱の持ちようがないようなのである。
つまり、「賽の河原」の石積みのように、積んでも積んでも鬼が壊しにくるような状況で、それに対してやる気をなまじ持っていれば身も心も打ちのめされてしまうという事が起きてしまうらしい。事実、その知人の友人は、同僚が一ヶ月ほどで出社拒否になってしまったという話をしていたとの事である。もちろん、仕事が金融関係のため、全てをご破算にして一から組みなおすという事は出来ない相談であり、またその会社の信頼にも関わるから、現状を表立って公表も出来ない。しかし、同じような状況の企業は恐らく他にも存在するだろうとの事である。
そうなると、そこで働く人達は仕事に生き甲斐を持っていては、とてもやっていけないことは明らかである。
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