高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

浜松の鰻屋で感じた「食べに出かける」食事の楽しみと今後の日本の食文化のヒント

高城未来研究所【Future Report】Vol.367(2018年6月29日発行)より


今週は、静岡県三ケ日町(浜松市北区)にいます。

日本のうなぎの名所はいくつかありまして、西は九州の柳川や、東は埼玉の川越や浦和が有名ですが、中部を代表するうなぎの名所といえば、浜松です。

浜松には、駅から徒歩10分圏内だけでも20店近いうなぎ専門店があり、市内には100軒超える店がある、日本有数のうなぎの名所として知られています。

この街にこれだけうなぎ屋があるのは、浜名湖が日本で最初にうなぎの養殖に成功したことに由来しています。
こう書きますと、養殖は湖で行っているとお考えの方も多いと思いますが、実際は湖畔に掘られた専用の「養鰻池」で養殖されており、うなぎは、あたたかな地ときれいな水を好むことから、浜名湖の温暖な気候と、地下400メートルからくみ上げ適温で管理された天然水は、うなぎにとって理想的な環境なのです。

さて、浜松うなぎが面白いのは、東西の中間に位置し、関東風うなぎと関西風うなぎの両方を食べられる点にあります。

まず、関西風のうなぎの開き方は「腹開き」です。
これは、商いで栄えた大阪ならではの文化で、商人同士の「お互い腹を割って話そう」という心意気が、うなぎの開き方にも表れたとされています。

一方、関東風のうなぎの開き方は「背開き」です。
こちらも、武家文化が栄えた歴史の流れが汲まれており、武士にとって「腹開き」は切腹を連想させることから敬遠されたと言われています。

それぞれの特徴を今風に言えば、関西風は表面がこんがり、中はジューシーな「パリフワ」で、関東風は蒸すことで皮さえも箸でスッと切れる柔らかさに、舌の上でとろけるような「トロフワ」の仕上がりとも言えます。

この東西の「うなぎ国境」が浜松であり、この街では関西風と関東風の両方を食べることが出来るだけでなく、東西のミックスとも言うべき、関東ほど蒸さず、関西の食感を残す「ヤワフワ」店もあります。

また、地方を食で盛り上げる動きも日本各所で行われていますが、ここ浜松はうなぎの他にも餃子に力を入れています。
しかし、「浜松餃子」は、正直そこまで盛り上がっている様子はありませんし、味も特筆するほどではありません。

一方、静岡県内にしかないファミレスチェーン「さわやか」は、県外からわざわざ食べに来るほど人気が高く、「さわやか」のハンバーグ(オニオンソース)は、もはや若い世代の県民食と言えるほどになっています。
「さわやか」が興味深いのは、東京などに出店してしまうと、セントラルキッチンから送る食材の味覚が時間によって損なわれてしまうため、静岡県内だけに出店をとどめている点です。
これが逆に話題となって、日本中から静岡の「さわやか」に訪れる人が後をたちません。
確かに、ハンバーグは、ファミレスにしては美味しいと思います。

さて、かねてより夏に時間ができたら、浜松に鰻重を中心とした食の探索に行きたいと思っていたところ、先週中東での仕事が延期になったこの機に、スコットランドから静岡までやってきました。
うなぎといえば、浜松周辺のなかでもピンポイントで美味しいのは、奥浜名湖と言われる三ケ日町。
この街が、うなぎ好き(とテクノアーティスト)にとって聖地です。
奥浜名湖には、日本が誇る世界的な電子楽器メーカーRolandのショールームと研究所があります。

この三ケ日町は、住所は静岡、つまり遠州ですが、文化圏は三河に属します。
場所は東でも、心は西。
この絶妙なミックスが、美味しく絶妙な鰻を焼き上げていると、個人的には考えています。

今回およそ5年ぶりにこの地を訪れ、浜松駅周辺を含め、10店舗を超える鰻重を食しましたが、三ケ日町に店を構える鰻屋の美味しさは、段違いです。
鮨屋に代表される地方の名店と言われる店は、千客万来になると、すぐに東京進出を考えたり、近隣の大きなターミナル駅側に出店しますが、この三ケ日町にある店は、そのような気配が、まったく見えません。
いまもわざわざ出向く必要があり、ここに欧州のような「食べに出かける」食事の楽しみ、そして、今後の日本の食文化のヒントがあると思います。
タイヤメーカーのミシュランがレストランガイドを出したのは、遠い地にある名店まで車で出かけ、タイヤを思う存分消費してもらうことから生まれたことからもわかるように、鮮度の高い食材にまさる一皿は滅多にありません。
ここに、安易なオンラインによる「お取り寄せ」の対極に位置するものがあります。

今週は、日々宿屋から有形文化財の天龍浜名湖線に乗り、うなぎの名店すべてを訪ね歩いて、日本の原風景を堪能しています。
どこかで、食に関する一冊を久しぶりに出したいと考える、梅雨の合間の晴れ間です。

 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.367 2018年6月29日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 著書のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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