小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

なぜゲーム機だけが日本発のプラットフォーム作りに成功したのか

※この記事は小寺信良&西田宗千佳メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」2014年11月28日 Vol.012 <示し続ける責務号>の冒頭です。

 

11月22日は、セガサターン発売から20周年だったそうだ。そして、来週12月3日は、PlayStation発売から20周年である。先日もソニー・コンピュータエンタテインメントがPlayStation20周年を記念する動画を公開し、SNS上でも話題となっていた。

・「プレイステーション」発売20周年特別映像『みんなのゲーム愛にありがとう。』篇
https://www.youtube.com/watch?v=m4KW0OBCtz4

 

もう20年か、自分が歳をとるはずだ……とは思う。当時はPC関連記事を書くライターとして仕事をはじめたばかりの頃で、会見などには「なんとなく面白そうだから潜り込んでみた」程度だった。

ゲーム産業をまず大きくしたのは任天堂だが、その後、様々なメーカーが切磋琢磨することで、産業として成長していった。その中で、メディアが本格的に光ディスクに移行したこと、映像を作るための手法がリアルタイム3D CGになり、音がストリームに変わっていったことは、大きな転機だった。その起点はやはり20年前であり、あの頃は特別な時期だったのだろう。

今の産業と比較して感じるのは、日本国内に「オリジナルアーキテクチャのプラットフォームを作り、世界を相手に大きなビジネスを成し遂げよう」としている会社が、しかも何社も存在した、ということである。「日本人はプラットフォームを作るのが苦手だ」といわれることが多いが、筆者はそう思っていない。ゲーム機では、きちんと成功できたではないか。それも、現在進行形だ。限界論もあるが、時代に応じた変化と共に、プラットフォームと産業を維持しようと努力しているのは間違いない。

ポイントはやはり、「なぜゲーム機だけが成功したのか」ということだ。製造や他社との関係性など、そこには色々な教訓が含まれている。そこには「日本だけで終わらない」という関係構築が重要だったのではないか、というのが、筆者のひとつの結論である。

2005年頃のことだったろうか。筆者は、元マイクロソフトの古川享氏・元アスキーの西和彦氏の対談記事のモデレーターをやったことがある。バケモノ(失礼)二人のお相手をするのはとても大変だったのを憶えている。そのさなか、概要が発表されたばかりだったPS3の話になって、西氏が次のように切り出した。

「日本がプラットフォームを作ってはいるが、GPUは結局NVIDIAになり、CPUもIBMと共同製作。要は日本の敗北ですよ」

その場で議論するわけにはいかないので、その話題はそこまでに止めたが、筆者は非常に強い違和感を感じた。そもそも、「日本の勝ち」とはなんだろう。任天堂がファミコンを作った時も、CPUはリコーが開発したが、アーキテクチャはモステクノロジーの6502がベースだった。PS1も、CPU・GPU開発には米LSIロジックが主導的な役割を果たしている。「日本だけ」で出来上がったプラットフォームなど、ほとんどなかったのではないか。逆に、日本企業が作ったパーツがなければ、現在のスマートフォンも世には出てこない。世界的な分業体制が基本である。

ポイントは「ビジネス価値を含めた設計の基本を、誰がどう作っているか」だと感じる。「巨大産業を育てるためのグランドデザイン作り」といってもいい。そこではアメリカ企業が圧倒的に強いものの、日本企業にも目はある。

小手先でないグランドデザインまで含めた勝負をしかける人々が、ゲームという舞台で戦っていたのが、20年前の「1994年」という年だったのだろう。

 

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2014年11月28日 Vol.012 <示し続ける責務号>目次

01 論壇(小寺・西田
 アマゾンジャパン・Kindle事業本部長に聞く「日本の電子書籍の今」
02 余談(小寺)
 また買った今度はMac Mini
03 対談(小寺)
 アキバ発のベンチャーを仕掛けるDMM.make AKIBA
04 過去記事アーカイブズ(西田
 iPhoneに見る「ITの論理」と「ケータイの論理」
05 ニュースクリップ(小寺・西田
06 今週のおたより(小寺・西田

 

12コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。

 

ご購読・詳細はこちらから!

 

筆者:西田宗千佳

フリージャーナリスト。1971年福井県出身。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。

その他の記事

健康的な耳を取り戻す(高城剛)
相場乱高下の幸せとリセッションについて(やまもといちろう)
津田大介メールマガジン『メディアの現場』紹介動画(津田大介)
屋久島が守ろうとしているものを考える(高城剛)
食欲の秋、今年は少しだけ飽食に溺れるつもりです(高城剛)
「AV出演強要問題」揺れるオフィシャルの対応(やまもといちろう)
自民党・野田聖子さんご主人、帰化在日韓国人で元暴力団員と地裁事実認定の予後不良(やまもといちろう)
なかなか技あり、行列を緩和する「イベントアプリ」(西田宗千佳)
煉獄の自民党総裁選、からの党人事、結果と感想について申し上げる回(やまもといちろう)
上野千鶴子問題と、いまを生きる我らの時代に(やまもといちろう)
村上春樹を読む:世界的な評価を受ける作家の共通点(内田樹&平川克美)
新型コロナウイルスが浮き上がらせる様々な物事の本質(高城剛)
川端裕人×小野雅裕 対談<答えの出ない「大きな問い」が僕らをつないでくれる>(川端裕人)
YASHICAブランドのスマホ向け高級レンズを試す(小寺信良)
2本の足で立つ、ということ(やまもといちろう)

ページのトップへ