岩崎夏海
@huckleberry2008

岩崎夏海の競争考(その22)

「なぜ若者に奴隷根性が植えつけられたか?(中編)

バブル経済とその影響

1980年頃から、日本という国はバブル経済が拡大していった。高度経済成長とバブル経済との間に挟まれ、今では忘れている人も多いのだが、実は1970年代というのは不景気だった。石油ショックなどの影響で、暗い雰囲気が世間を覆い尽くしていた。そうした世相を反映して、宇多田ヒカルの母親である藤圭子など暗い歌が流行していた。

シラケ世代は、あさま山荘事件、受験戦争、不景気と、暗いことばかりが続くときに子供時代を送っていたのだが、それがなぜか、彼らが大学生や社会人になった頃合いで、急に世の中が明るくなったのだ。バブル経済が膨張し、空前の好景気を迎えた。それに伴い、これまでの反動もあって、世の中がどんどん享楽的になっていったのである。

そうして、狂乱の80年代が幕を開いた。80年代は、実にさまざまな意味で明るい10年だったのが、ぼくがその時代を象徴するものとして思い出すのは、「テレビ文化」と「若者文化」だ。テレビ文化でいえば、ちょうどこの頃、フジテレビが視聴率争いでトップに立つようになった。フジテレビは「80年代を象徴する文化」といってもいいと思うのだが、そのときのキャッチフレーズが「楽しくなければテレビじゃない」というものだった。フジテレビは、とにかく人生を楽しむことを称揚した。そうして番組をバラエティ中心に編成すると、これが大成功を収めた。バブル経済の後押しもあって、それをとことんまで押し進めた。

そういう享楽の世相を受けて、若者文化もまた、これまでの禁欲の反動からか、一気に享楽的なものへと転じた。若者はとにかく遊びに興じた。ディスコがブームになり、多くの若者が深夜まで遊び惚けた。自動車が流行して、多くの若者がデートにドライブを楽しんだ。高価なホテルに泊まったり、高価なレストランで食事をしたりすることが流行した。若者たちは、仕事やバイトで稼いだお金をそうした遊びに注ぎ込むことに躊躇いを感じなかった。お金ならいくらでも稼げたし、遊びもいくらでも用意されていた。楽しもうと思えばいくらでも楽しめるような環境が整備されていたのである。

それで、シラケ世代は一気に遊び狂った。それは、80年代の10年間を通して行われた長い長い宴の時期でもあった。そうして彼らに、決定的な思想を植えつけるのである。

「やっぱり、人生は楽しんだ者勝ちだ。戦ったら負けだ。勉強など意味がない。その証拠に、ヤンキーだった中卒の同級生が、オヤジの土建屋をついで羽振り良く暮らしているではないか。人生は遊んだ者勝ちなんだ。楽しくなければ人生ではない!」

そういう考えが、ついに彼らの中で結論づけられたのである。そんなとき、結婚し、子供が生まれた。そうして彼らは、こう思った。「この子には、自分たちが経験してきたような、無意味な、つらい思いはさせたくない!」

次回は、後編をお送りします。

 

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岩崎夏海

1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

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岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

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