城繁幸
@joshigeyuki

城繁幸メールマガジン『サラリーマン・キャリアナビ』★出世と喧嘩の正しい作法より

山口組分裂を人事制度的に考察する

これからの“山口組”が要注目! だと考えるワケ

さて、メディアがおどろおどろしく煽り立てているように、神戸・山口組と名古屋・山口組はこれから山一戦争の時みたいにドンパチはじめるんでしょうか? 恐らく、ほぼ何事もなくピリピリした関係のまま共存していくことになると思います。

というのも、今の暴力団には20代はほとんどおらず、一番多いボリュームゾーンは50歳前後と高齢化が著しいからです。たとえば50歳の人間が鉄砲玉になって刑務所で10年お勤めすると、出所時には60代ですから、誰も体なんて張りたいとは思わないでしょう。

同じことはトップにも言えます。近年、暴対法が改正され、トップの使用者責任も認められるようになっています(民事)。また共同正犯とみなしてトップを刑事罰に問うという判例も増えました。

実際、05年には山口組トップの司組長が「ボディガードが拳銃を持っていた」という理由で6年ほど収監されており、今回も兵庫県警は両団体のトップを引っ張ろうと手ぐすねひいて待ち構えているはず。名古屋系のトップの司組長は73歳、神戸系トップの井上組長は67歳ですから、捕まったらどっちも獄死する可能性大ですね。こうなるともう最初に動いたほうが負けと言っていいでしょう。

実は、この構図は既に全国で現実のものとなっています。06年に分裂した九州道仁会と誠道会の抗争は結局決着のつかないまま今でも両団体は共存しています。11年に山梨で稲川会から分離独立した山梨侠友会なんて、組織規模で言えば五十分の一くらいですけど、ぶっ潰されることなく今でも元気に看板出してます。組を割ったらどちらかが壊滅するまで戦うというのはもはや過去の話なんですね。

筆者は逆に、これから広域暴力団はどんどん分裂していくだろうと見ています。外に向けて成長できない以上、内部での政治闘争が過熱する一方だし、抗争が制限される以上、兵隊が少なくても気に病む必要はないためです。

とはいえ、筆者が一番注目しているのは、ヤクザ社会の構造的な変化です。シノギ(ヤクサの稼ぎのこと)の減少により、今、ヤクザは岐路に立たされています。一つの選択肢として、先述のようにヤクザはヤクザであることを辞め、諸外国の犯罪組織のようにマフィア化していくというものがあります。本来非合法な犯罪組織が事務所構えてたり名刺やバッジ作ってたりするのがそもそもおかしいわけで、これはこれで一種の正常化と言えるかもしれません。親分子分の関係も希薄化して、より専門性の強い職務給的な組織に変わっていくと思われます(たとえば鉄砲玉の代わりに専門のヒットマンが仕事を受ける等)。

ただ、これは現役のヤクザさん達にとっては非常に面白くない選択肢だと思います。というのも、この手の年功序列型組織は全部そうですが、現時点で権力を握っている年功者は自らの座布団を否定するような改革にえてして否定的なものだからです。それに、彼らはいかついカッコして目立つのが好きな人たちなわけで、秘密組織になってしまうとヤクザの醍醐味もへったくれもありませんしね。

というわけで、近年の動きから見ても、恐らく彼らはもう一つの選択肢を選ぶはず。それは組織のスリム化と、外部人材の活用です。もう抗争の時代ではないので、兵隊が1000人いようが100人だろうがそれほど重要ではありません。むしろ正式な組員が多すぎると組織としての秩序の維持に大変苦労することになります。

だから、正式に盃を交わして親子になる組員は少数に抑えつつ、フロント企業や(関東連合のような)半グレ、不良外国人グループといった外部集団へのアウトソーシングを通じてシノギを手に入れるスタイルに変化していくはず。要するに、既存の年功序列型組織を頭に維持しつつ、職務給型の役割型組織を下にくっつけて活用するわけですね。2010年以降の急激な暴力団構成員数の減少は、彼らのこうした動きを裏付けるものでしょう。

(「暴力団構成員等の推移」平成26年の暴力団情勢より)

と、ここまで書けば、勘の良い人はもう気づいたはず。そう、メンバーシップに基づく正規構成員と契約ベースで流動性の高いグループの二重構造は、まさに現在の日本企業そのものなわけです。法律で縛られた企業とアウトローな方々が同じような組織運営を志向するというのは実に興味深い話です。

実は、現在、日本企業の中にも「もう年功序列はダメだから職務給で流動性の高い組織に変えていかねば」と言っている電機のような企業と「いやいや、我が社はやっぱりこれからも年功序列でゼロから人材育成します」という新日鉄やトヨタみたいな企業が併存しています。でも、筆者は、恐らく後者もいずれは脱・年功序列に追い込まれるだろうと見ています。コアな仕事は生え抜きだけで大切に育てたいから、という理想は理解できますが、何がコアな仕事なのかは時代によって流動的にならざるをえないためです。

同じことはアウトローの世界にも言えるはず。メンバーシップに基づく少数精鋭の組織で、外部の手綱を上手く握って利益を上げようとしても、いずれは外部に手綱を握られることになるでしょう。外部を押さえつけるだけの暴力を、もはや彼らは維持していないからです。暴力団と終身雇用制度は、意外と同じタイミングで姿を消すことになるのではないかと筆者は考えています。

 

【今週のポイント】

・組織の成長が止まると、不利益の再分配が必要となり、既得権に手を付けない年功序列制度は維持不可能となる。

・とはいえ、管理職ポストを半減させるソニーやシャープのような荒療治はヤクザには難しい。親分への絶対的服従は、将来的に確実に報酬が支払われるという信頼関係があってこそ成立するためだ。

・近年の暴力団情勢を見るに、彼らは日本企業同様、正規の組員数を抑え、外部人材を活用することで既存秩序を延命させようとしているように見える。だが少数派が利益とコア事業を独占し続けることは企業同様に困難であり、やがて行き詰まりを見せることになるだろう。

 

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城繁幸
人事コンサルティング「Joe's Labo」代表取締役。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』等。

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