切通理作
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切通理作メールマガジン「映画の友よ」

高橋伴明、映画と性を語る ~『赤い玉、』公開記念ロングインタビュー

裸から逃げるな! 自由でなくなる

―― 高橋監督の年代を主人公にしながらも、けっこう若い人へのジャブというか、そういう姿勢も感じたんですが。

高橋 いやジャブは打ってますよ、はい(笑)。っていうか、ストレートのつもりで打ってる部分も結構ありましたね。

まずは、学生が作る映画を何本も見てきて、エロ表現からすごい逃げてる。
そう感じてて「なんだよお前ら」とか「人間描く時に、なんでそれ避けて通るの?」っていう話をしたら、ちょっとそういうシーン入れた映画が出てきたんだけど、そういうシーンになったかと思ったら、3秒か4秒ぐらいでパッと終わっちゃって「まだ逃げてんなこいつら」と思ってて。

そういう事から逃げるっていう事は逆に、自由じゃなくなるよっていう。

―― だから学生が作っている映画のベッドシーンの撮影で、胸にパット入れてるくだりがあったのでしょうか。

高橋 そうそう。あれも、本番では写ってないのにパット入れてるでしょ? でもう、本番終わったから、タオルケットかなんか外したら、それでもまだしてたわけだよな。

―― 守りすぎみたいな。

高橋 そうそう。でも(いまの学生は)あんなシーンすら撮らないから。

―― あれですら……。

高橋 うん。

 

武田泰淳と川端康成

―― 時田が尾けていた女子高生が、劇中の現実に居るのか居ないのかというのも、見ていてちょっと思ったんですけども。

ちょっと不思議な感じの、物静かで、昭和の美少女みたいな佇まいで……。

高橋 武田泰淳の『富士』は読まんでしょうっていう。
相米(慎二)がね、一時『富士』を撮りたがってたんだ。
一方で俺も撮りたかったの。けどまあ、相米が自分で先に言ってたから、俺黙ってた。難しい話だけど、ちょっとトライしたいなと思ってた。

『富士』は、富士の裾野にある精神病院の話。主人公はそこのお医者さんなんだけど、医者側と患者側、どっちが正しい事言ってんの?みたいなね。そういう「狂っている」と言われている人間たちの言動にこそ、正しい……というのかな、「人間」が見えるというのかな。色んな事が盛り込まれた長~い小説ですけどね。すっげえ面白いですよ。

―― それを読んでいる少女っていう。

高橋 そうそう。まず居ないだろうと思うけどね。

―― 老いた人が少女と思いを交わしたいみたいなのは、監督の中にもあるんでしょうか。

高橋 あの主人公は全部俺じゃないかって言われるんだけど、それは全然ない。正直まったくない。

あの部分は、正直に言うと川端康成の『みずうみ』っていう小説。あれはねえ、なんか自分の中に残っていて。

―― 女の人を尾けまわす話ですよね。『伊豆の踊り子』でもそうですけど、触れられない、入っていけない世界の美少女に惹かれるっていう。

高橋 川端さんのってそういう匂いがね、随所にあるけども。あれはだから、ちょっと下地がありましたね。

あれも情けないじゃないですか。主人公が。

―― 少女・律子役の子は? 村上由規乃さんという方ですが。

高橋 新人。学生。うちの。愛子役の土居志央梨もそうだし、2人とも教え子です。俳優コースの。学校の掲示板に「こういう映画を撮ります。ただし性表現があります。それでよかったら応募してください」って出して、来た子。

演技は初めてながら、胎の座った村上由規乃のたたずまい  (c)「赤い玉、」製作委員会
 

「来ないだろうな」とは思ってたのね、実は。でも10人近く来たんだよね。で次の条件が「親の許可を取ってこい」と。その条件が満たされなかったのが1人ぐらいかな。みんなクリアというか、OKになって。その中から選んだんです。

落ちた子は、他の女子高生役とかになった。

―― あの2人は、学生さんから選んだってわからないぐらい役柄に合っていましたね。

高橋 似合ってるというか、成熟してるよね。そういう子、結構多いんじゃないかな。

―― 演技も、初めてに近いんですか。

高橋 土居志央梨の方は、出た時は4回生だったんで、学内の経験は結構豊富ですよ。あの子はうまいよ。どの役も的確にこなすね、いままで見てきて。

――監督は演出する時に、「こういうニュアンスで演ってほしい」というところまで言うんですか。

高橋 言わない。違ったら違ったでいい。「演技でそう来るなら、次はこういう展開にしよう」って考える方が好き。

よっぽど、わき道に逸れすぎるような芝居だったら「いや、戻して」って言うことはありますよ。でも、役者の解釈を大事にしたい方ですね。

尾けてきた時田をラブホテルにいざなった少女は…… (c)「赤い玉、」製作委員会

 

<企画ありき>じゃなく<クレームありき>の映画

―― 映画の中では、主人公が書いていた脚本のタイトルが『赤い玉、』だったわけですが、実際のこの作品も、企画段階からこの内容だったのでしょうか。

高橋 というか、まさにそうだよね。うちの大学で北白川派運動っていって、『正しく生きる』(15)とか『カミハテ商店』(12)とかね、林海象の『弥勒 MIROKU』(13)とか、学生と教員が一緒になって作るというかたちの映画を作っていたんだけども、ちょっとお金がなくなり、中断したんですよ。そしたら学生から「このプロジェクトがあるから、この学校に来たのに……」という声が、上がってきたのね。

それやっぱ、学生の言ってる事の方が正しいし、でなんかの形で作らにゃいかんなと思って、それで急遽いまのホンを作ったんですよ。だから学生のクレームがスタートですね。

―― 学生との共同制作のプロジェクトが一回終わった後の作品なんですね。

高橋 終わってる。だからこれは外部作品なんですよ。自主制作です。
だから、微々たるカネだけど、自分の老後用というかね、プラス葬式用のお金と、まあうちのカミさんが社長の会社があって、その会社からも出してもらえることになって。それがスタートですね。

それにまあ、後から2社ぐらいが「金出してもいいよ」って、くっついて。いま3社になってる。製作委員会的にはね。

だから「企画ありき」じゃなかったんだよね。クレームありき(笑)。

―― 奥田瑛二さんの主演というのは最初から?

高橋 アテ書きしてました。「奥田ならやってくれるだろう」っていうもくろみもあったしね。快くドーンと引き受けてくれたけど。

俺なんかは、学生が性表現から逃げてるっていうのが大きいんだけど、奥田は奥田で、彼自身監督だし、こういうエロス的な表現を正面に捉えた映画が少なすぎるんじゃないかっていう思いを抱いていたみたいだし。それじゃいかんのじゃないかって思ってたって言ってた。

マネキンの向こうで少女を抱きしめるイメージ・シーン (c)「赤い玉、」製作委員会

 

呑むか吸うか、ヤッてるか

―― 時田の、先生としての側面も味わい深く感じられました。学生に何気なく、酒の飲み方を教えてあげたりとか、撮影中に怪我した時とかのちょっとしたところの目配せも。

高橋 まあ、酒の飲み方は教え続けんといかんねえ。

―― 若者は酒、呑まなくなってませんか?

高橋 なってる、なってる。呑んでも、カシスオレンジとか、わっけのわかんないカクテルばっかり呑んでるよね。

―― (笑)映画の中でも、そういうツッコミしてましたよね。

高橋 だからもう、学生が行くような呑み屋じゃなくて、ちょっとお金は大変だけど、それなりにちゃんとした店に連れていくの。学生を。だからゼミの討ち入りと打ち上げは大変ですよ。

―― それは結構(お代を)持ったりするんですか?

高橋 全部金は俺が払うから。人数が多いゼミなんか、大変よホントに。26人とかいるとさあ。

―― 時田と愛人の唯はしょっちゅう呑んでましたね。

高橋 そう。映画の中では呑んでるか、タバコ吸ってるか、ヤッてるかしかない。あれは、俺の一日の流れみたいなものだから。朝起きて呑み、メシごとに一杯は呑む。で、夜はあんな感じ? ご覧のようにパカパカ煙草吸ってるし。ダメなのは女だけだよね(笑)。

―― エロス的な題材は、今後もまた手がけられるのですか。

高橋 今回いいタイミングだったと思うのね。だから、今後やるとしたらエロスでもちょっと違う形のアプローチになると思いますけどね。

でもなかなかね、こういうのってお金が集まりにくい。商売的に、エロスが前面に出てると集まりにくい傾向にある事はたしかなんで。宣伝がしにくい。R-18なんかだとね。
今回はR-18なんですけど。あえてそうしたんです。
 



高橋伴明:『婦女暴行脱走犯』で1972年に監督デビュー。以後60数本のピンク映画を監督。1982年の『TATTOO<刺青>あり』でヨコハマ映画祭監督賞受賞。以来、脚本・演出・プロデュースと幅広く活躍。1994年の『愛の新世界』はおおさか映画祭監督賞を受賞、ロッテルダム映画祭に出品。『BOX 袴田事件』(2010年)イラン・ファジル国際映画祭 監督賞。

 
『赤い玉、』は全国順次公開中!
http://akaitama.com/

 
※本記事はメルマガの記事から再構成したものです。「赤い玉」のタイトルの意味がわかる衝撃的なシーンの撮影秘話や、主人公が退職する際の演出で高橋監督がひらめいた事、この作品が制作段階から物議をかもした理由、<謎の美少女>の正体をめぐる話題……等のエピソードも語られる完全版は、既に配信されている『映画の友よ』第38号でお読みくだされば幸いです。
 

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切通理作
1964年東京都生まれ。文化批評。編集者を経て1993年『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』で著作デビュー。批評集として『お前がセカイを殺したいなら』『ある朝、セカイは死んでいた』『情緒論~セカイをそのまま見るということ』で映画、コミック、音楽、文学、社会問題とジャンルをクロスオーバーした<セカイ>三部作を成す。『宮崎駿の<世界>』でサントリー学芸賞受賞。続いて『山田洋次の〈世界〉 幻風景を追って』を刊行。「キネマ旬報」「映画秘宝」「映画芸術」等に映画・テレビドラマ評や映画人への取材記事、「文学界」「群像」等に文芸批評を執筆。「朝日新聞」「毎日新聞」「日本経済新聞」「産経新聞」「週刊朝日」「週刊文春」「中央公論」などで時評・書評・コラムを執筆。特撮・アニメについての執筆も多く「東映ヒーローMAX」「ハイパーホビー」「特撮ニュータイプ」等で執筆。『地球はウルトラマンの星』『特撮黙示録』『ぼくの命を救ってくれなかったエヴァへ』等の著書・編著もある。

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