やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

政争と政局と政治



 このところ、東京都知事選を挟んで都政に関するすったもんだが繰り広げられておりますが、私自身も若干土壌改良のところは噛まざるを得ない部分があってしばらく都庁であれやこれや話を聞かされておりました。

 まあ、酷いもんです。個人的には、伏魔殿扱いされている東京都庁の職員の面々が、別に本人たちの責任でもないのに報告不行届だ、情報公開が不徹底だと突然言われて、怒っているというよりは途方に暮れている状況を見て「どうしたものか」と同情するところが大です。悪者にされたうえに、特に筋道も政策論も見当たらない適当な話ばかりが上から降ってくるのではどうしようもないのではないかと感じます。

 一方で、大都市東京の都市経営という観点からすれば、長期政権であった石原慎太郎さんが都知事の時代からこれといって展望が開けていません。東京五輪2020はもちろん大事なイベントですが、本当に開催できるのかどうかってところまで追い込まれそうな状況であるにもかかわらず、なぜか豊洲新市場の問題その他で時間を食ってしまっている、というのが実情です。東京の未来を決めるのが東京都職員や幹部だって話になれば、では何のための都知事であり、都議会との二元代表制なのかというそもそも論に戻ってしまうわけですね。

 人気はともかく政治家としての能力については常々疑問符が付く小池百合子女史が都知事になるという事例は、都庁という官僚組織がしっかりとそれを守り抜くことができればという前提付きで「制御可能」な事案だったはずでした。ところが、実際にいま起きていることは、都議やメディアからのバッシングに対して脆弱すぎる体制で揺さぶられる都庁であり、いままで阿吽の呼吸で配慮してきた開発事案など入札の問題でかなりいろんなものが揺らいできています。そのまま倒れてしまうなんてことはないにせよ、都税がきちんとした形で使われてきたのか、と真正面から問われ、胸に手を当ててみるといろんなことが思い当たると述懐する幹部もおられるのも実情です。

 ならばなおのこと、これが問題だと開き直っていってみて、本当に小池女史でどうにかなるものなのか試してみる的な博打でもできればいいんじゃないかと感じる部分はあります。私自身は部外者ですが、中で悶々と「あれどうしよう」「これ困ったな」と鳩首会談を続けるよりは、純粋に都民の利益を考えるとこれは正すべきだ、という「都官僚として信じるべき道」みたいなものが見えると良いのではないかと思うわけであります。

 私が言っていることは所詮外部の話ですし、中にはいろんなしがらみや地方公務員としての立ち振る舞いのむつかしさがあるのは承知しています。ただ、ここまで都政が注目され、それも悪者に仕立て上げられた都職員や幹部が抗弁も許されないままメディアに叩かれるというのは、見ていて切ないものがあります。もう少し言い分ぐらい聞いてやれる機会があれば救われるのでしょうが。

 この辺が、政争と政局の怖ろしいところです。政策によって都民がより便利になり、豊かな生活を送れるようになるはずが、立場の異なる者同士の争いや降って湧いた政局に振り回され、にっちもさっちもいかなくなる「もんじゅ状態」になったのは役人だけの責任ではないと思うからです。それによって、不利になるのは都民ですからね。

 小池女史についていうならば、おそらく広がり切った風呂敷を畳む機会もないままに、ただただ状況に流されて刹那の判断を繰り返しているだけに見えます。その意味では、守屋さんを切ったころの防衛大臣時代に似ています。その折は、防衛大臣として内閣改造に残留できず、たったの55日で事実上更迭されたのが小池百合子女史です。同じことを繰り返すにあたっては、防衛大臣のときは第一次安倍内閣という大きな揺り籠の責任者がいたわけですけれども、今回はやらかして介錯してくれる人はいません。猪瀬直樹さんがそうであったように、あるいは舛添要一さんも吊るし上げられたように、メディアによって断罪され、無能の烙印を押され、都民の怒りが掻き立てられて、追われるようにそのポジションを失うことがあり得るのが東京都知事という職なのです。

 なればこそ、誰かを悪者にし続けなければならないわけでして、東京都の地方公務員が悪い、自民都連が悪い、石原慎太郎元都知事が悪い、東京五輪実行委員会会長の森喜朗さんが悪いと、敵を作り演出をし続けて維持できるのが東京都知事の椅子だとするならば、やはり都民として悲しく残念な結果になることも覚悟のうえでしばらくこの小池劇場を楽しむしかないのかな、と思う次第です。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.165 小池劇場に翻弄される東京都政の混迷を憂いつつ東京ゲームショウ2016で感じた大きな変わり目の真のヤバさを冷静に語ってみる回
2016年9月29日発行号 目次
187A8796sm

【0. 序文】政争と政局と政治
【1. インシデント1】東京ゲームショウ2016で感じた恐ろしいこと
【2. インシデント2】打倒Google、Apple、Facebook、Amazonを唱える経産省の第四次産業革命に向けた熱い思い
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」のご購読はこちらから

やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

その他の記事

『時間の比較社会学』真木悠介著(Sugar)
「いままでにない気候」で訪れる「いままでにない社会」の可能性(高城剛)
ヒットの秘訣は「時代の変化」を読み解く力(岩崎夏海)
「高倉健の死」で日本が失ったもの(平川克美×小田嶋隆)
能力がない人ほど「忙しく」なる時代(岩崎夏海)
「自由に生きる」ためのたったひとつの条件(岩崎夏海)
ネット時代に習近平が呼びかける「群衆闘争」(ふるまいよしこ)
週刊金融日記 第315号【恋愛工学を学んだ者たちが世界中で活躍している、外交工学で金正恩がノーベル平和賞最有力候補へ他】(藤沢数希)
狂気と愛に包まれた映画『華魂 幻影』佐藤寿保監督インタビュー(切通理作)
「Surface Go」を自腹で買ってみた(西田宗千佳)
人生における「老後」には意味があるのでしょうか?(石田衣良)
「民進党」事実上解党と日本の政治が変わっていくべきこと(やまもといちろう)
人は何をもってその商品を選ぶのか(小寺信良)
“日本流”EV時代を考える(本田雅一)
テレビのCASがまたおかしな事に。これで消費者の理解は得られるか?(小寺信良)
やまもといちろうのメールマガジン
「人間迷路」

[料金(税込)] 770円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回前後+号外

ページのトップへ