高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

人々が集まる場に必要なみっつの領域

高城未来研究所【Future Report】Vol.316(2017年7月7日発行)より


今週は、小淵沢にいます。

1904年以来、長年使用されてきたJR小淵沢駅舎は、今週から新駅舎へと変わりました。
風格と味がある旧駅舎も趣がありましたが、近代的な新駅舎は外観だけでなく、再生可能エネルギーや省エネなどの環境技術を導入した「エコステ」モデル駅として整備され、太陽熱を利用した暖房システム等、最新設備を備えています。

このような駅の改築や移築は、小淵沢程度のサイズなら難しくないのでしょうが(小淵沢は旧駅の隣に新駅建造)、渋谷駅となると、そう簡単に物事は進みません。
駅利用者数の世界ランキングを見ますと、1位新宿、2位渋谷、3位池袋となっていまして、こう見るとまるで日本ランキングのようですが、これは「世界の駅利用者数」ランキングです。
ちなみに、世界ランキング4位が大阪の梅田、5位横浜、そして6位に北千住がランクインしており、1位から23位まで日本の駅が独占していて、24位にようやくフランスのパリの北駅が入ります。
日本人は、いかに狭い場所に日々人が集まっているのか改めて理解すると同時に、日本における駅が特殊で特別なものであり、また、公共性としての「場」の重要性も理解できるところです。
渋谷駅が動くのは、ニューヨークにあるセントラルパークが、東へ100メートル移動するのと同じなのかもしれません。

さて、世界の街には人々が集う場所があり、公園やプラザと呼ばれる広場が、その機能を担ってきました。
この「場」は、集会やお祝い、そして祭事、時には蜂起する歴史的発火点ともなる「場」でもあります。
江戸から東京の戦前、戦後のまちづくりは、時の為政者が、人々が蜂起しないように必要以上な空間を意図的に市民に与えてこなかったと言われており、それが、東京の息苦しさや風通しの悪さを、今日までひきずっているという識者もいます。
パリ大学で地理学を学んだ後に東京日仏会館の学長なども務めたオギュスタン・ベルクは、著書「空間の日本文化」で、よく語られる「間」のような日本文化における空間を論じるのではなく、空間を切り口にして日本文化を論じました。

オギュスタン・ベルクは、欧州の主要都市を例にとり、人々が集まる「場」には、大きくみっつの領域が必ず存在すると、述べています。

ひとつめは「物質的な」領域。
これは実際の空間を意味します。
ふたつめは、社会的な」領域です。
これは「場」が持つ機能を意味します。
そして、みっつめが「精神的」な領域です。

公園が少ない日本の駅を「場」として捉えると、物質的や機能的には欧州における広場を代替しますが、精神的には代替しません。
いまから四半世紀以上も前に書いた自著に、日本にベンチャー企業が生まれないのは、戦後すぐのように「空き地」がないからだ、と僕は説いたことがあります。
自由に出入りできる空間は息苦しくなく、そこから良いアイデアが生まれ、そのような「空き地」がバブルとともになくなってしまったことが、新興産業が日本が成長できない理由だと考え、僕なりに論じたのです。
そして同じように、サイバースペースにも「物質的な」領域と「社会的な」領域、さらに「精神的」な領域が必要なはずです。
amazonと楽天の違いは言うに及ばず、日本的掲示板からヤフコメまで、どこか似て非なる「場」は、日本的な風通しの悪さを感じずにはいられません。

翻って、大自然の山あいにあり、自然を考える駅とは、最新の環境技術を導入した「エコステ」モデルなのか、それとも、100年以上の歴史を持つ古い駅舎を保存しながら改築することなのか。
なにより、精神的に満たされるのは、いったいどちらなのか。

2020年を目指し、建て替わりが進む日本各地。
たったみっつの条件、「物質的な」領域と「社会的な」領域、さらに「精神的」な領域を考え、「場」づくりが行われているのは、どこなのでしょうか?

これらの与件を満たした「場」や「地域」そして「サービス」が、きっと2020年代に生き残るのでしょう。

 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.316 2017年7月7日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 未来放談
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 著書のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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