やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

2本の足で立つ、ということ

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年始からいくつか手がけていることがどんどん発表になっていっておりまして、現在CFOを担当させていただいているデータビークル社でも新製品の紹介で特定界隈より随分なご反響をいただきました。ありがたいことですが、真の意味で真正面から取り組み成果に結びつけたのは経営者でありリスクテイカーの油野達也と彼についてきた部下たちであって、純粋にここまでやっていける少人数のチームというのは良いものだなと思うわけなんですよね。さっそく幾つかお引き合いの話もあり、データ分析業界も言われているほど景気が良いわけではない状況ではあるんですが、ありがたいことです。

で、良い商品というのはいろんな人たちからの支えがあってのことで、当たり前のことですけど誰かの発案でポッと思いついて出来上がるものではありません。必ず業界動向や技術のトレンドとお客様のニーズ、実現可能性調査と相応のプロジェクトの立案があって初めて物事が前に進み、結果としてモノが出来上がります。

それが個人や少人数で手がける同人的な作品であっても、百人単位数年がかりで制作される映画であっても、おのおの携わるために必要なスキルは異なっていたとしてもやっていることは同じです。最終的にこういうモノを作るという明確なビジョンと、それに対して要員を引っ張り、分解された仕事を一つひとつこなしていって最終的なプロダクトというゴールを目指すという仕組みは変わりありません。

ここで、リーダーやトップやボスという存在の大きさに気づくことになるんですけれども、タイトルで述べたように「物事を成し遂げる力」が強ければ強いほど、そのリーダーやトップはどこにいても、どんな場所でも、あらゆる仕事の推進力として、人様から「来てほしい」として請われる側に回ります。簡単な話が、物事を企図し、どういう形かであれ着地させる能力のある人はどこの世界でも希少だ、ということでもあります。

ある業界ではプロダクトマネージャーと言われ、別の世界ではエクゼクティブ・プロデューサーと呼ばれる仕事は、多くの場合「いまある仕事をこなしていった結果、一定の年月が経てば身につく能力」によってこなせる代物ではありません。残念なことに、若いころから物事に取り組み、自分なりにケリをつけていく作業を少しずつやり、やったこととできたモノの違いを掴み取って修正をし続けるという途方もない労力をかけてきた人たちが少しずつ学んでいく世界のスキルなのでしょう。

よくモノ作りは性格でできるできないが決まるから、と言われるわけなんですが、私の棲息するICT業界周りやコンテンツ業界での投資の経過を見ていると、そういう天賦のもので言い表せるものばかりではないことに気づきます。もちろん性格として自分なりのこだわりややりたいことを明らかにして主張することにためらいのない資質はあるのかもしれませんが、それはむしろ従で、本当に必要なことは自分なりの試行錯誤を積み重ねていき、当たった外れた、成功した失敗したに限らず取り組みを継続していくことのできる人に仕事が集まるように思うのです。

なので、巷で言われる「一流になるための1万時間の法則」とか「諦めない人が成功する人」というのは、きちんとした試行錯誤や結果を出すためのプロセスが身についている人に限っては、という意味で事実なのだろうと感じます。そして、私がキャリア系のサイトでたまに喋る「40歳になっても履歴書を書くような仕事の仕方はしないほうがいい」というのは、まさにこの自分の足で立っていられる人、手がけたことや実績がその人のキャリアそのものを表し、この人となら仕事をしてみたい、どういう形であれ結果は出ないということはない、という“引き”に繋がっていくのだろうと思うのです。

私でさえ、別に無理に働く必要はなくともいままで投資界隈で培ってきた統計的手法や、ソフトウェア開発の手順などが身に染み付いていて、いままでもどちらかというとプロジェクトの「炎上」をしたときあの人に頼めばどうにかしてくれる風情のポジションで長らくいたのは事実です。しかしながら、そういう経験を踏んできたからこそ、少ない予算でプロジェクトを整理し、何を優先順位にして切り出せばどういう形であれ最終的なプロダクトを捻り出せるのかということを短期間で考える能力が備わりました。また、投資業務や助言などは当たったり外れたりするものですが、それを説明したり、ファンドを組成したり、投資委員会を組んでステークホルダー各位が納得のいく権利分配ができる仕組みを作るということをやってきたので、何か大口のコンテンツ系案件が投資されるとなると「ちょっと意見聞かせてよ」というコンサルや外部プロデューサーの依頼がたくさんやってくるようになるわけであります。別に私がお金を出すわけでもないのにね。

裏を返せば、スタートする年齢はともかくとして、自分の手がけたことや実績にきちんとこだわりを持ったり、自分の心の中に見極められるような「目利き資産」のようなものが試行錯誤の結果積み上がってさえいれば、数年である程度はモノになるのがビジネススキルというものの正体なんだろうなあと思うのです。実際、40代中盤でようやくご自身の手がけたことを再編成して取り組まれたら、数年で立派なプロダクトマネージメントの中心人物になった御仁もおられます。その人、厄年だかで前職を親御さんの介護で辞められ、しばらくコンビニの店員までやって、親御さんとのお別れで区切りがついてからハローワークでほぼ未経験のまま異業種に飛び込んでこられた方なんですよね。

まあ、そんなこんなで仕事をきっちりやり遂げることの大事さや、やり遂げた後の振り返りが、ビジネスパーソンの心とスキルを強くするんだよ、ということは是非知っていただきたいと願う次第であります。これほんと。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路

Vol.147 ビジネスパーソンの心とスキルについてを真面目に考えつつ、近頃目立つたちの悪い愛人騒動はあれ何なんですかね
2016年1月31日発行号 目次
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【0. 序文】2本の足で立つ、ということ
【1. インシデント1】ある経営者の愛人騒ぎと余波
【2. インシデント2】Amazonがこのところ調子こいてるようですが実態はどうなのでしょうね
【3. 特別対談】乙武洋匡さん:第二回
【4. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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