やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

フェイクニュースか業界の病理か、ネットニュースの収益構造に変化



 先日来、フェイクニュースやPR付ける付けない問題ですったもんだしているウェブメディア業界ですが、ここにきて広告主のデジタル予算のつけ方がだいぶ変わってきたこともあって地殻変動をし始めているようです。

 お世辞にもクオリティメディアとは言えない某ウェブメディアでは売り上げがいきなり二割減に陥ったり、相互にコンテンツ融通している先との関係解消に至ったりしている理由は「ページ数を増やしても収益にはつながらなくなってきた」ことが背景にあります。もちろんウェブニュースバブルが弾けたという簡単な結論にはなり得ないのですが、このところ右肩上がりで増えてきたニュース系サイトへのページビューが頭打ちになってきて、取引の成立割合を示すコンバージョンレート(CVR)も劇的に減ってきたのは特筆するべきところです。

 大手出版社系のウェブメディアも総じて横ばいに転じ、コンテンツごとの売り上げも以前ほどの利益水準でなくなってきました。例えば、週刊誌を持つ大手サイトは、月間PVが1億4000万ほどあったものが、この2017年上期はダウントレンドに入り、安倍昭恵、籠池、加計問題といった政治的なイシューが中心だったこともあって、4月以降は特に伸び悩みました。

 昨年はSMAP解散や不倫騒動など多数の芸能系スキャンダルが多かったことでネットメディアが成長した一年だったため、YoYでみると物凄いアクセス数の減少に見えるサイトも少なくありません。

 中堅から大手メディアについては、他社のウェブメディアから記事をバーターで入れたり、買い取ったりして収益化するというビジネスモデルが一般的になっていることが、全体の収益性の下落に陥ったのではないかと思いますが、最近ではウェブメディアから撤退するICT企業や、一時期流行した企業クライアント主宰のオウンドメディア自体が休止、運営委託する動きも顕著になってきました。

 いわゆる画像や映像などを一次請けするメディアとそうでないメディアとでCVRが大きく変わってきていて、スマホ向けでは特に誤タップを誘導する広告表示にはペナルティがつくケースも出てきているのでオーバーレイ広告からの表示収益に依存してきたメディアは一気に苦しくなります。大手経済メディアでも大口のペナルティが一時期出ていたために界隈が騒然としましたが、青天井でPVを伸ばすために過激なタイトルをつけページを分割し誤タップ上等でサイトを運営していた者が逆回転を始めたのは微笑ましく思います。

 一方、FTCでは広告記事(ネイティブ広告含む)や口コミの情報開示(関係性明示)についての勧告が出るなど、かなり世界規模でこの方面の制限が強くなってきている印象はあります。日本のウェブメディアで言うと、PR表記をするしない以前にこの手の記事のバーターや買取からのアドネットワーク売りで命脈を保っているメディアを改廃しないことにはなかなか改革も進まないでしょう。

米当局、広告記事・口コミの情報開示勧告 消費者保護へ

 さらに、アドネットワーク界隈でいえば、一時期物凄くテクノロジー的にも成長したと思われたアドテク方面が大手クライアントからの撤退を喰らうケースが相次ぎ、デジタル広告予算はあるけれどどのように使ったら効率的なのか分からなかった時代から、だいぶ理解が進んでクライアント側が明示したサイトに広告が掲載されるようになってきました。効果の乏しいデジタル広告は淘汰される前夜なのかもしれませんが、大口であるほどに目が行き届かないという事例も大きく、マーケティングオートメーションのようなダッシュボードを提供している会社でも「収益性をベースにデジタル広告メニューを組むと、アドネットワークは全オチしかねない」という事例さえも出ています。

 おそらくは、年末商戦向けのデジタル広告で具体的な異変が起きるのかもしれませんが、ユーザーにはあまり目に触れない部分の戦いでもあるため、もしもFacebookその他でナショナルクライアントの変な動画広告が増えるようであれば「ああ、そういうシフトをしたんだな」ぐらいに思っていただけると良いのではないかと感じます。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.197 ウェブメディア戦線異状あり、家庭向けネット家電もなにやら不安、そして西海岸VC界隈の行儀の悪さはどうしたものかというぼやきとか
2017年7月31日発行号 目次
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【0. 序文】無風と分裂の横浜市長選2017、中央が押し付ける「政策」と市民が示す「民意」
【1. インシデント1】猛り狂うシルバーデモクラシーの現状
【2. インシデント2】ネット転売問題と情報商材事情をそのまま混同して報道するメディアのナイーブさ
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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