茂木健一郎
@kenichiromogi

2012年アメリカ大統領選挙について考えたこと

完全な自由競争はファンタジーである

いまだに影響力を持つ「自由主義」というイデオロギー

みなさん、こんにちは! 茂木健一郎です。私は今、イタリアのシチリア島のタオルミーナにいます。先ほど、オバマ大統領とロムニー知事によるアメリカ大統領選の討論を見ました。どちらの候補者がアメリカの大統領になるのかは、我々日本人にも非常に大きな影響を与えます。その点から考えても、この二人の討論の内容に耳を傾けることにはもちろん意味がある。しかしそれ以上に、この二人の三回に渡る討論から、「私たちはどうやって社会をつくっていくべきか」を考えるための重要な論点が見えてきたように思うのです。

かつて、この世界には、マルクス主義、共産主義、社会主義といった「社会主義イデオロギー」というものがありました。そして、ソ連などいくつかの国家は、それらのイデオロギーを指針として国家を運営していた。社会主義とは要するに、中央政府が、社会資源の配分や経済システムを最適化することができるという思想です。ところが、ソ連邦の崩壊、ベルリンの壁の崩壊などがあり、そうした社会主義イデオロギーを通して、この世の中を運営するのは難しいことが明らかになった。今では、中国のように、名目上では共産主義を強行している国でも、実質上は資本主義が導入されている。北朝鮮でも、「計画経済・統制経済では立ち行かない」ということが、実際の国の運営から明らかになっている。

今回、アメリカの大統領選の議論を見ていると、もう一つ、いまだに我々に対して影響を与えているイデオロギーがあることに気が付きます。それは「自由主義」あるいは、「市場による競争」は素晴らしいというイデオロギーです。

1 2 3 4 5
茂木健一郎
脳科学者。1962年東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文藝評論、美術評論などにも取り組む。2006年1月~2010年3月、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』キャスター。『脳と仮想』(小林秀雄賞)、『今、ここからすべての場所へ』(桑原武夫学芸賞)、『脳とクオリア』、『生きて死ぬ私』など著書多数。

その他の記事

「安倍ちゃん辞任会見」で支持率20%増と、アンチ安倍界隈の「アベロス」現象(やまもといちろう)
ソニー平井CEOの引き際。なぜソニーは復活できたのか(本田雅一)
人生を変えるゲームの話 第1回<「負ける」とは「途中下車する」ということ>(山中教子)
街にも国家にも栄枯盛衰があると実感する季節(高城剛)
古い日本を感じる夏のホーリーウィークを満喫する(高城剛)
アマチュア宇宙ロケット開発レポート in コペンハーゲン<前編>(川端裕人)
ひとりで「意識のレベル」を測る方法(高城剛)
「常識」の呪縛から解き放たれるために(甲野善紀)
イケてた会社のリストラに思う(やまもといちろう)
先進国の証は経済から娯楽大麻解禁の有無で示す時代へ(高城剛)
メガブランドの盛衰からトレンドの流れを考える(高城剛)
LINE傍受疑惑、韓国「国家情報院」の素顔(スプラウト)
わずか6ページの『アンパンマン』(津田大介)
YASHICAブランドのスマホ向け高級レンズを試す(小寺信良)
時代の雰囲気として自ら線が引けてくれば……(甲野善紀)
茂木健一郎のメールマガジン
「樹下の微睡み」

[料金(税込)] 550円(税込)/ 月
[発行周期] 月2回発行(第1,第3月曜日配信予定) 「英語塾」を原則毎日発行

ページのトップへ