公示前の調査なので、あまり込み入った項目を用意することはむつかしいのですが、木曜金曜とグループインタビューをしたり、各社が出してきた数字を並べてみてみると「有権者もいまの政治情勢に引っ張られて、あまりきちんと政策ごとの賛否を明らかにしていない」ということが垣間見えます。もちろん希望の党が次々に打ち出す問題がジェットストリーム状態になっているので、既存政党も有権者も目くらましを受けている状態なのかもしれませんが、とにかく政治に関心のある層は「希望の党が民進党からの移動で踏み絵を迫っている」というのが大きいようです。インパクト強くて。
先行した日本テレビの調査でも、小池百合子女史は都知事の仕事に専念するべきが61%、都知事を辞職して衆議院選挙に立候補するべきが12%をはるかに上回るという結果となって、常識的に数字だけ見れば小池百合子女史の野望は別として、有権者は必ずしも希望の党で比較第一党となり最低でも連立、あわよくば首班指名に小池百合子女史をということは考えていなさそうだというところまでは分かります。もちろん首班指名は国会議員でなければだめで、いま希望の党が調査しているとされる東京1区(今の議席は山田みき・自民)、東京12区(今の議席は太田昭宏・公明)で、どちらに小池女史が出馬してもダブルスコアで勝利できると見られます、が、その場合は当然都知事辞任とセットになるうえ、その踏み込みをするにあたっては都知事の後任が小池女史にとって自分の都政を否定しないという条件が付く希望の党の公認候補でなければなりません。
希望の党は安保法制への賛成ほか「踏み絵」を移籍希望の民進党議員に突きつけている一方、政策面での協調という点では安全保障や消費税というのは本来二の次であり、国民に実感のある政策で言えば教育や年金、医療などの社会保障、景気対策などの経済政策が主眼となるはずですが、現段階で希望の党が具体的な政策や綱領について未策定のまま衆議院選挙に踏み込もうということが理解できます。つまりは、政策など無くとも人気があって話題になれば選挙で勝てるのだ、ということに他ならないわけで、これで本当に大丈夫なのかと思う人は少なくないでしょう。
そして、希望の党にとって有権者が冷静になってほしくない、話題をどんどん投下しなければならない理由は、安倍政権との補完勢力であるどころか、ほぼ主要政策が同一であって差がないのだという点です。改憲であれ経済政策であれいまの自民党や安倍政権が掲げる政策内容に具体的な批判をあまり小池女史は加えていません。それどころか、菅義偉官房長官ら自民党の重鎮政治家たち自身が「希望、維新は改憲勢力」と、事実上希望の党の方針を歓迎するかのような発言をするなど、自民党が失言するなどして失点しなければたいした脅威にはならないと理解し始めているのが分かります。
結果として、小池百合子女史自身はたいした政策を構想しておらず、おそらくはそこを埋められるのは前原誠司さん以下民進党の実務に通じた議員だけでしょう。先にも述べた通り、この状況であれば、小池女史自身の立候補は見送られ、首班指名は前原誠司さんになります。万が一、有権者が自民党政治に対して強い飽きを感じたり、情勢がひっくり返るような失言を自民党サイドしてしまったら、過半数割れからの連立政権でまさかの前原首相が誕生することもあるかもしれません。
もちろん、連合からの協力がなんだかんだで取り付けられ、最大の課題である選挙資金面での不安が解消されれば、の話ですが。
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」
Vol.203 呆れつつも無理を承知で今回の総選挙の成り行きをぼんやりと予想しつつ、近頃のソフトウェア開発トラブルやフィンテック動向について言及してみる回
2017年9月30日発行号 目次
【0. 序文】ここまで政策不在の総選挙も珍しいのではないか
【1. インシデント1】業務用アプリケーション開発会社はトラブルの温床か
【2. インシデント2】みずほがフィンテック方面でいろいろと積極的に動いているようです
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
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