やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

「たぶん起きない」けど「万が一がある」ときにどう備えるか



 このところ、投資家界隈でも不動産や買い持ちスタイルの投資をやっているメンバーの間で持ちきりな話題が2つあり、片方が北朝鮮問題、もう片方が中国経済の信用不安であります。

 これはもう、感性の問題ですので「そう思う」か「そうは思わない」か、それもこれといった根拠のある話ではないので、相場観次第でどうとでも取れる内容ですが、日本でも海外でも「この景気は長くは続かないよなあ」というもっさりとしたコンセンサスがべったりと共有認識であるグループから、そっとディフェンシブな投資にウエイトをかける、という方針になったりして、興味深いところはあります。

 もちろん、本格的なリセッションが世界経済で起きましたとなれば、「そもそもディフェンシブな投資とは何か」という哲学的な命題が出てきます。マカオやドバイ、シンガポールといった金融セクターに置いておいたお金は不安定な状況に放り出されますし、安定した通貨と言われても米ドルなのか日本円なのか微妙な情勢ですし、何と言ってもリセッションに強いはずの銘柄は世界的な需要と強くリンクしているため大幅な値崩れも覚悟しておかなければ長期保有なんてできるはずもありません。私もそうですが、買い持ちメインのロング愛好家は、常にリセッションのリスクでも守れる投資先探しというのが本当の意味での死活問題ですので、流動性の高いすぐ逃げられる資産にしておくとしても逃げる先がないのであれば意味がないのです。結果として、需要の高いであろう人口密集地の商業施設や、そういうところに権利を多く持っている飲食やアパレルといった手堅い銘柄を選んで買おうとするのですが、それだってすでに割高も割高になっているので、どのタイミングでどう買い上がるかは「えいや」の世界です。

 ずっと話していて「もうこれ以上の景気拡大はそうそう期待できないだろう」というところまで話がいたっても、世界中が金余りの状況になると本当に価値のあるものに投資しようとしてもその価値を決めているのが時価であり、また、いろんなビジネスやセールスの果てに積み上がっている売上を根拠に価値が決まっているものであれば、リセッションに突入したら売上はもちろん激減するでしょうし、利益は消し飛んで、YoYでどうという尺度など意味を持たなくなります。リーマンショックのときを見返して、あのときどの銘柄が比較的損害が少なかったんだっけ、と思い返したりするのが常になってきます。損をしたくないというよりは、理不尽に嫌な思いをしたくないからこそ、必死で考えるわけであります。

 その点でいうとビットコインやイーサリアムのような狂乱の世界というのも、ある種の徒花的なものはありつつも、世界経済の流動性、マネーが増え続けている状況であれば、まだまだ伸びていくのかもしれません。しかしながら、これらの仮想通貨の問題点は税制面での不利だけでなく仕組み上きちんとした監査が組みづらく、プラットフォーム事業者からICO発行母体にいたるまでそのB/Sは常に外部には公開されず胴元だけが儲かる仕組みになっているという点でマネーゲームに特化した非常に危うい仕組みであることに間違いはありません。

 どこぞのプラットフォームにおいても、事前にステークホルダーの中心的人物にボリュームディスカウントをして大きな発行シェアを持たせ、イーサリアムなどの暗号通貨と兌換させてICOでエクジットを画策しているのを見るとそれは単なる「価格操縦なんじゃないの、大丈夫なの」という観点で問題意識を持ちます。仮に日本の金融当局が「仕方ないな」と思っても、そこで発生した不公正な取引で損害を蒙るのは投資家です。私は舞台裏を知っているのでそんなものには手を出すのをやめようと判断つきますが、一般の投資家が「ビットコインがついに100万円を超えた」「BTCやETH連動のICOで巨額の富が生まれるらしい」などと話し合っているのを見ると、投資は自己責任という建前が虚しく感じられるほど実態と期待感の間で落差が大きくあることに気づきます。

 逆に言えば、知らなければ私だって簡単に騙されるであろうし、リセッションの臆病風が吹いてこれらのあぶく銭の集まる市場に全力で突っ込んでいる人ほど80年代後半のバブル崩壊では済まされないほどの痛手を被る可能性があるんじゃないかと思うわけです。そればかりか、そういう損害を受けて身動きが取れなくなった人たちは、相場から退場するにあたって他の価値ある資産を処分してしまうわけでして、当然騙されなかった人たちもアルゴリズムごと損失の発生を余儀なくされるのです。

 誠に理不尽な話ですが、世の中はそもそも不合理であり、もともといま私たちが同じ時代に意識を持ってこの社会でコミュニケーションを取っていることじたい奇跡なのです。もう、そこまで哲学的に根源に帰らないと納得出来ないぐらい、この世は言語道断と行っていいほど適当にできています。

 個人的には、そういうトリガーが北朝鮮に対する戦争という形で引かれないと良いなと願いますし、中国経済の変調が問題の起点にならないことを祈ります。というのも、中国経済と一口に言いますが、上海や杭州と天津、大連のあたりでは景気が全然違います。猛烈に公共事業が引き締められ、自動車販売の総量が決められて借金の返済もままならない地域と、凄まじい技術トレンドを牽引しキャッシュレス社会どころかゴマ信用のようなサイバネティック社会を実現してしまいかねない都市圏とでは、同じ中国でもまったく状況が異なるわけです。

 そして、いま中国の景気トレンドでいうならば、上海を中心に概ね1億人ぐらいの経済圏で猛烈なバブルが発生して、そこででている信用創造をテンセントや百度、アリババなどが吸収して、中国全土にサービスをばら撒いているというのが実情で、この構造は残念ながらそう長くは続かないでしょう。そういう危ういバランスの上に成り立っているのがビットコインであったり、日本との貿易であったりすることを考えれば、投資家としてどこに危機感を持つべきか容易にご理解いただけるのではないかと思います。

 翻って、北朝鮮問題というのはそういう問題を覆い隠す風呂敷のような役割であると同時に、いままで全力で推進していたジェットが何かのショックで逆噴射するトリガーになるのではないかと恐れる部分もあるわけです。戦争はしたくないけれど、戦争でも起きてくれて事態が混乱し目の前の問題がごちゃごちゃになってドサクサに紛れて欲しい、と思う人たちが少なくないのが実情なのかもしれません。

 景気はとてもいいんだけど、本当にこんな景気が続くのか、ものすごくビクビクしながら迎える年の瀬になるんじゃないかと思っていまして、いま以上に気を引き締めて生きていかなければならないなあと思う昨今です。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.209 不安定な時代の投資についての考察、そして深刻な我が国のスパイ問題の裏側とスマートなデバイスに付きもののトレードオフを語る回
2017年11月30日発行号 目次
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【0. 序文】「たぶん起きない」けど「万が一がある」ときにどう備えるか
【1. インシデント1】ポスト「開戦前夜」と官邸に出入りするスパイ問題
【2. インシデント2】スマートなデバイスから生じるトレードオフをどう考えるべきか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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