やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

フィンテックとしての仮想通貨とイノベーションをどう培い社会を良くしていくべきか



 コインチェック社の件は、先週末からあれこれと記事を書いたりしておりましたが、まだこれからどうなるのか予断を許さない状況に陥っております。

 この手の話は動きが速いので、どうしても話題がセンセーショナルな方向に行きがちですが、金融庁や関東財務局が出したコメントでほとんど当局の見解は「さもありなん」という内容に仕上がっていて、行間を読むことで多くのことが理解できるのではないか、また近い将来の出来事を予測できるとも感じます。

ビットコイン取引所「コインチェック」で620億円以上が不正に引き出される被害が発生(追記あり)(山本一郎)

コインチェック社「持ってないコインを消費者に売る」商法と顛末(山本一郎)

 スキャンダルとしての本件はさておき、実際にフィンテックが私たちの生活をどう良くしていくのか、技術的な後進国といわれ、中国都市部に比べて圧倒的に電子化が遅れているとされている我が国日本が、これからフィンテックを使いながらどのように便利で安全で快適な社会を作り上げていくのかを本来は考えていかなければなりません。

 不幸なことに、今回のコインチェック社の問題はフィンテックの中でももっとも人間の欲に忠実なところが出てしまった、どちらかというとフィンテックはまったく関係ない賭場の話です。これが理由で、仮想通貨に対する嫌悪感が出て、画期的で有用な技術なのにその利活用に後ろ向きになる可能性があるとすると非常によろしくないと思っています。

 本来、より民主的な仮想通貨というのは理想であったとしても、最終的には今回の事例が示すようにハッカーを突き止めるにあたっては公権力の行使が必要であり、被害が発生して申し立てられればフィンテックと当局の対応という二つのベクトルをうまく行使する必要があります。つまり、政府から独立した技術体系を目指すフィンテックが個人を国家や社会から解放し民主化される、という理想像よりは、より国家が安全かつ合理的な仕組みをフィンテックのような高度技術を巻き込みながら国民と一緒に実現していく形にならざるを得ないだろうと思うわけです。

 だからこそ、今回の関東財務局のファインプレーや、私自身も仮想通貨相場のヲチを続ける中でかなり早期に問題に気づくことができたというのは、ある種の許認可・申請とこれらの新しい技術の「近さ」に原因を求めることができます。また、仮に今回のような犯罪まがいのことがあったとしても、行われることはどちらかというと古典的な証券詐欺やポンジスキーム、原野商法にノミ行為から賭場開帳図利といった、馴染みのあるものばかりです。人間がやる詐欺というのはだいたいそんなものであって、事件化するにあたってはフィンテックそのものはむしろサブであり、メインは人間の欲望の暴走や既存体制のハッキングだったりするのだと思います。

 むしろ、そういう人間の欲望をうまく使いながら、この技術をよりよく進化させ、社会がより合理的で安全な制度や仕組みになるよう考えていかなければなりません。イノベーションを悪用すればもちろん酷いことになるけれど、良い方向に使おうとする力を持つために、みながこの技術の内容や方向を理解し、適切に対応していくことが求められているのだろう、と思います。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.213 仮想通貨を巡るあれやこれやについてじっくりと語る回
2018年1月31日発行号 目次
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【0. 序文】フィンテックとしての仮想通貨とイノベーションをどう培い社会を良くしていくべきか
【1. インシデント1】仮想通貨が胴元有利とされる理由
【2. インシデント2】市場にあるCPUのほぼ全てがセキュリティ的に問題という未曾有の事態が起きている件
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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