一部では楽観論も出ていたKKベストセラーズ社の混乱の話ですが、どうも変な話になってしまったようです。
KKベストセラーズに身売り報道
社長一族の突然の退任劇 老舗出版社「KKベストセラーズ」の危機
2015年ごろから「KKベストセラーズが引受先を探している」「身売り話が出た」というもっぱらの噂はあったものの、比較的編集者が元気な出版社なので、代替わりして新しい資本でも入れるだけではないかと思われていた矢先に、かなり微妙な形で話題になってしまったため非常に残念です。
昨年暮れに、ネットでの情報配信に力を入れる上場企業が株式の過半を買収して吸収するという話が出ていたものの、その後ぱったりと聞かなくなった後でこの問題が露顕し、どうやら資金繰りというより経営継続の意志が失われるというあまり普通ではない混乱に陥ってしまったように聞こえてきます。大手ではないとはいえ比較的老舗のKK社ですらこの状況ですので、他の出版社で、とりわけ財務が痛んでいたり、低迷が続いている各社はますます引き受け手がないまま編集者の引き抜きだけが進んでいくような状況ではないかと思います。
一月にはKK社の「救済策(縫合策?)策定のために」という動きもあったようですが、具体的に何か交渉があったようにも聞こえてこなかったので、そのままボツったのかもしれません。どうにか良い形でKK社には立ち直ってほしいと思うところです。
一方、今後も大量に大型書店の閉店が計画されている本屋さん業界では、いわゆる図書館的な蔵書を抱える店舗から「いまさらこれはもう売れないだろ」というような書籍が大量に返本になるという危機的状況を前にして、書店の取次で一部不安が広がっている状況です。取次某社では増資要請が飛び交っていたり、業界横断的な救済策を求めて大同合併する案もあったようですが、これもまたKK社の救済プランのように船頭多くしてまとまらず、また取次という仕事の先の暗さゆえに資本も集まらず買収に名乗りを上げる企業も出ないという物悲しい状況にあります。
結局、情報を売る、そのためには優秀な編集者がセットで企画をカネにしなければならない業界である以上、その器である紙という媒体がネットにとって代わられ、また本屋さんがコンテンツ流通の真ん中から脱落して久しい状況では、やはり編集された情報を紙に情報を印刷して売るという仕組み自体が摩耗したと言わざるを得ません。新聞社における新聞記者以上に、優秀な編集者にとって会社の看板で仕事をしているわけではないという状況になりやすいわけですから、より多くの報酬が期待でき未来が明るい業態へと転職していってしまうのは仕方のないことだと思います。
そうなると、出版社であれ取次であれ書店であれ、顧客のニーズをどう掴み、それをどうお金に替えていくのかという、本来の価値の見直しまで踏み込んでいかないとスポンサーはなかなかつかないだろうなあということは自明じゃないかと感じます。そればかりか、土下座されても書店は要らないとか、会社は買ってもいいけど経営陣は全員クビと言われると、古いタイプの経営陣は「そんなところには俺の会社を売れない」と無駄な啖呵を切り、徹底抗戦の挙句に米びつから飯が払底して白旗を上げようにも力が出ないというようなことが起きないとも限りません。
買収先や出資元を見つけられず、それでいて民事再生をするほどの度胸もない経営陣が出版社という看板で人様に知識を売っていたというのは笑い話のようにも聞こえますが、それだけ本が売れなくなった、人は本以外の方法で情報を手に入れるようになったということの裏返しでもあります。手堅く専門書を地味にやっていたはずが、業界の混乱とともに押し寄せる返本で収拾がつかなくなったり、細る書店売りではやりくりできなくなって万歳するところが今後も増えるとすると、早めに手当てしておく以外に方法はないのではないかと感じます。
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」
Vol.217 KKベストセラーズだけではなく本当に大変そうな出版業界、かなりやばそうなゲーム依存症のWHO国際疾病分類入り、バズワードとしてのAIなどを語る回
2018年2月19日発行号 目次
【0. 序文】終わらない「大学生の奨学金論争」と疲弊する学びの現場
【1. インシデント1】問題続発の仮想通貨交換業者問題、そのトラブルと課題
【2. インシデント2】今どきのIT機器動向と相性の悪い技適マーク問題
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」のご購読はこちらから