高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

新宿が「世界一の屋内都市」になれない理由

高城未来研究所【Future Report】Vol.424(2019年8月2日発行)より

今週は、モントリオールにいます。

冬が長いことでも知られるこの街の夏は、湿度が低く、晴天が多い過ごしやすい時期ですが、ついつい癖で、どこにいくにも地下街を歩いてしまいます。

世界最大と言われるモントリオールの地下街(通称:RESO)は、真冬には氷点下20度まで下がることから、ダウンタウンの地上及び地下に広がる複合商業施設を接続し、巨大地下都市を形成しています。
ショッピングセンター、ホテル、マンション、銀行、各種医療機関、博物館、大学、モントリオール地下鉄7駅、中央駅含む通勤列車駅2駅、バスターミナル、そしてアリーナに接続し、面積が10万キロ平方メートル以上もあることから「屋内都市」(仏:ville interieure)とも呼ばれ、降雪の多い冬季には一日に、約50万人が地下空間を利用しています。

この「屋内都市」内にホテルを取れば、一歩も外に出ることなく、真冬でもモントリオールの仕事を平服でこなすことができるため、せっかく季節の良い夏に来ても、歩き慣れた地下街を思わず歩いてしまうのですが、どうやら地元の人々も、そのような人たちが少なくないようです。
わざわざ都心部の地上に上がらなくても、買い物から食事などの用事を地下で済ませ、帰路に向かう人たちも少なくありません。
そのため、気候が素晴らしい真夏でも、都心は地下のほうが賑わいを見せているのが、この街の特徴です。

そこで、僕がいつも利用する新宿の地下都市を見てみましょう。

日本最大の地下街と言われる新宿駅は、小田急エース(北館・南館)、京王モール、京王モール・アネックス、新宿サブナード、ルミネエストだけで、面積10万キロ平方メートルを超え、モントリオールに負けていません。
これに地下で連なる新宿三丁目の伊勢丹から高島屋、そして東急ハンズを入れれば、間違いなく世界最大の地下街と言えるのでしょうが、決して、そのようには言われることはありません。

なぜでしょうか?

その理由は、日本の法律だと、単体の地下街と地下街を結ぶ通路の多くは「地下街」ではなく「鉄道施設」と定められているので、たとえ繋がっていても、「別の地下街」としてカウントしなければならないなどの行政的問題や、JRと私鉄の協力関係が乏しく(東京駅も同じです)、連なる百貨店も、「鉄道施設」でも「地下街」でもない「地下階」と定義とされているからです。

つまり、モントリオールは、地下で接続されたすべての部分を「地下街」とし「世界一の屋内都市」とアピールしますが、新宿の地下は、実質的には世界一の屋内都市であるのにも関わらず、日本の縦割り行政と組織の協力関係が弱いため、「地下街」、「鉄道施設」、「各種商業施設の地下階」は別の区分とされ、「世界一の屋内都市」とアピールすることができないのです。

また、1日平均乗降者数を見ても、モントリオールが地下鉄7駅に中央駅含む通勤列車駅2駅でおよそ50万人に対し、新宿駅単体だけでも、およそ350万人と世界一(ギネス世界記録認定)で、地下道で接続する西武新宿駅・新宿西口駅、そして新宿三丁目駅まで含めると、政令指定都市横浜市の人口を上回る、およそ400万人の1日平均乗降者数となりますので、新宿こそが世界最大の「屋内都市」なのは間違いありません。

巷に蔓延る「日本スゴい論」は、無理強いな側面も否めませんが、高度化された都市交通網と、連なる都市型のライフスタイルは、日本こそ世界一だと、モントリオールの地下街を歩きながら実感する今週です。

まあ、縦割りで風通しの悪さも、日本は先進国一だと思いますが。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.424 2019年8月2日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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