※この記事は本田雅一さんのメールマガジン「本田雅一の IT・ネット直球リポート」 Vol.054「吉野彰さんノーベル化学賞に想う、リチウムイオン電池と現代デジタル製品」(2019年10月16日)からの抜粋です。

今年は吉野彰さんらリチウムイオン電池の発明者たちに、「ノーベル化学賞」が授与されることが発表された。「ノーベル賞」と聞いても、どこか人ごとのような世界に思っていたが、青色ダイオードの開発とともに、リチウムイオン電池は、現代のテクノロジー製品にとって必要不可欠な技術だ。
必須の技術というのでは、まだまだ言及し足りない。現代のマスターピースと言っても過言ではない。もし、リチウムイオン電池がなければ、スマートフォンも電気自動車も、また風力発電や太陽光発電などの不安定な電力供給源を活かすこともできなかっただろう。もちろん、リチウムイオン電池がなければ、代替する他の技術が生まれていた可能性もある。
しかし、90年代前半に初めてリチウムイオン電池について取材して以降、この技術を刷新しそうな新しい技術は発見されていない。今、僕らが使っているさまざまな電子デバイスはもちろん、今後、もっと発展していくだろう5G社会におけるIoTの数々も、そのほとんどはリチウムイオン電池という技術基盤の上に成り立っている。今回は、少し昔話を交えながら、このリチウムイオン電池についてコラムを進めていきたい。
リチウムイオン電池は、なぜ夢の電池だったのか
受賞したのはジョン・グッドイナフ米テキサス大学教授、スタンリー・ウィッティンガム米ニューヨーク州立大学特別教授、そして吉野彰旭化成名誉フェローの3名だ。電気を帯びたイオンになりやすい重金属であるリチウムを電池用の極材料に使おうというアイディアはずっと以前からあったようだが、充電できる二次電池というと、1973年のエクソンモービルが開発した正極に硫化チタンを用いた電池が最初だった。この電池を生み出したのがスタンリー・ウィッティンガム氏である。
しかし、この電池は簡単に自然発火してしまうなど危険性が高いこともあり、二次電池として有効に機能する組み合わせであることは確認できたものの、実用化には至らなかった。この電池以降もリチウムをイオン化して二次電池にする技術が、一貫してチャレンジしてきたのは“燃えないリチウムイオン電池”を開発することだ。リチウムをイオン化する有機溶剤は燃えやすい。一方で高いエネルギーを蓄積せねばならないわけで、過充電やショートなどで燃えないよう工夫することが、夢の高エネルギー密度電池を実現するためのポイントだったわけだ。
自然発火の問題に対して答えを出したのが、吉野彰氏とジョン・グッドイナフ氏。それまでリチウムはイオン化するとマイナス電荷となる負極に使っていたが、正極にコバルト酸リチウムを使うという逆転の発想でリチウムイオン電池が生まれた。その後、負極材料はさまざまなものが開発されているが、これはサイクル寿命や充電容量の増加などに寄与はするものの、“刷新”と言えるほどの違いはもたらしていない。
もしリチウムイオン電池がなかったら
リチウムイオン電池が素晴らしかったのは、それまで主流だったニッケル水素電池に比べて1.5倍以上のエネルギー密度と比重の軽さといった利点だけではない。リチウムイオン電池は繰り返し充電に強く、とりわけ“少し使って、少し充電”の繰り返しで性能が劣化しにくいところが、最終的に世の中を変えていく原動力になったのだと思う……
(この続きは、本田雅一メールマガジン 「本田雅一の IT・ネット直球リポート」で)
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2014年よりお届けしていたメルマガ「続・モバイル通信リターンズ」 を、2017年7月にリニューアル。IT、AV、カメラなどの深い知識とユーザー体験、評論家としての画、音へのこだわりをベースに、開発の現場、経営の最前線から、ハリウッド関係者など幅広いネットワークを生かして取材。市場の今と次を読み解く本田雅一による活動レポート。
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