※高城未来研究所【Future Report】Vol.472(2020年7月3日発行)より
今週は、石垣島にいます。
この時期は、梅雨明け台風前の年間を通じてもっとも気候が良い時期で、また、日照時間が長いこともあって八重山諸島各所を撮影をするのに最適なシーズンです。
昨年も同時期に訪れて、「撮影三昧」の日々を送りました。
とは言え、まだまだ古い習わしで社会が形成されているため、島によっては、豊年祭や豊年祭の準備などで、立ち入れない場所が多々あります。
日本の最南西の島々には、いまも古い文化や仕来たりが残り、普段は石垣市でサラリーマン生活を送っている人も、時が来れば、地元に帰らざるを得なく、企業もそれを認めています。
つまり、仕事より郷土文化が上位概念として存在します。
テレワークだろうが関係なく、地域のルールが最優先となるのです。
本来、豊年祭は収穫祭であり、豊かに実った秋に執り行うものですが、南西諸島では、台風によって畑が壊滅してしまうことも多々あり、それゆえ、台風被害が起きないよう祈願の意を込め、この時期に行うのが古からの教えとして残ります。
個人的に、もう二十年近く南西諸島の伝統的な祭事(祭祀)を見てまわってまして、各地の祭りには各地の歴史が封印されており、それを読み解くのが、日本の島を巡る夏の楽しみのひとつとなりました。
なかでも誰でも入島でき、誰でも見学できて楽しめるのが、黒島の豊年祭。
海の彼方「ニライカナイ」の神に感謝する祭事で、ハーリー「爬竜船競漕」と、海岸を歩く「みるくさま」が見所です。
この「みるくさま」とは、「弥勒さま」が沖縄方言に変化したもので、釈迦入滅後56億7千万年後にこの世に出現し、釈迦仏が救済しきれなかった衆生を救う来訪仏(メシアニズム)として、日本全土で「弥勒菩薩」の名で知られています。
インドで、大乗仏教の発展と共に「未来仏」としての弥勒信仰が広まり、それが中央アジアを経て中国大陸に伝わって、太古の南西諸島へとたどり着きましたが、広く知れ渡る細面の弥勒像とは異なり、ここでは脹よかな面が、八重山諸島各地の祭りに登場します。
沖縄では、東方の海上に神々が住む「ニライカナイ」という土地があり、神々がそこから地上を訪れて五穀豊穣をもたらすという思想が古くからありました。
この思想が「みるくさま」信仰のベースにあります。
一方、黒島と異なり、豊年祭へ一切の立ち入りを厳禁とし、地元の人もその内容を口にしてはいけない秘祭が、いくつもあります。
そのひとつが、新城島の豊年祭です。
石垣島の西南西約25キロにある、2つの島 (上地島と下地島)からなる新城(あらぐすく)は、普段から定期便もない離島のなかの離島で、豊年祭の時期だけ西表島の大原に行く高速船が臨時に立ち寄りますが、祭りは島の住民、もしくは、その親戚しか見ることの出来ない秘祭です。
豊年祭の間は、準備期間も含めて、祭り関係者以外の者の立ち入りは疎か、船などによる島への接岸、接近も禁止されており、島人でも祭りの期間は勝手に島内を歩くことはできません。
なにより、この祭りの間は、写真撮影、スケッチ、筆記は厳禁で、過去にこの決まり事を破った者は、かなりの処罰を受けています。
「祭り」は「祀り」であり、「奉り」でもあります。
本年は、新型コロナウイルス感染拡大のため、観光客が多い黒島の豊年祭は、中止が発表されました。
しかし、「日本最後の秘祭」と言われる新城の豊年祭は、もともと、いつ開催されるのか公表されることもなく、また、開催されても、それを口にする人もいないため、開催されるのかどうか、まったくわかりません。
近隣の島に住む人たちは、「新城の豊年祭だけは、コロナだろうが開催されないわけがない」と、口々に言いますが、事実はわかりません。
なにしろ、実態すらわからない祭だからです(が、当該地関係者は、会社を休みはじめました)。
インターネットにない世界がある八重山諸島の夏が、本格的にはじまったと感じる今週です。
高城未来研究所「Future Report」
Vol.472 2020年7月3日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
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