やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

衆院選2017 公示前情勢がすでにカオス



 前原誠司さんの身売り的な小池百合子「希望の党」合流見込みで、大変な激震が走ったまま公示前の事前情勢に各社走っておりますが、蓋を開けてみると「意外と希望の党に支持が集まっていない」状況であることが分かってきて、おや? という感じであります。

 もちろん、他にもウルトラCがあるのかもしれず、またこういう情勢ですと失言ひとつで幾つか当落線上がひっくり返ることもあり得ますので、少なくとも公示となり各選挙区の立候補者が出そろわないとはっきりしたことはなかなか言えません。ただ、候補者が出そろう前に各党の得票傾向を把握するために行われる「比例代表での投票先」では、全国で自民39、希望22。読売が出した調査結果で自民34、希望19。

 もしも本当に希望の党で政権交代を目論むのであれば、少なくとも現時点で自民党と拮抗した数字が取れていないとなかなか大変であろうことを考えると、ちょっとまだ全然足りない状態であると言えます。

 特筆するべきなのは、まだ暫定値ながら東京と南関東ではそれぞれ自民33、希望26と、自民35、希望15。これを「健闘している」と見るか、思ったほどではなかったと感じるかは微妙な部分です。政党別支持率が得票に直接大きく影響するわけではないのですが、直近で自民党が3ポイント程度の下落でこれを希望が喰ったと言える一方、告示前調査では数字がハネるはずの共産党が伸びずに低迷しているのは気になるところです。

 つまりは、無党派層からの期待を希望の党が集めているのは恐らくは事実なのですが、この無党派層はあまり政治には関心がない人たちをかなり含み、それはいままで政権批判票や反自民票として民進党や共産党で分け合っていたものが、ここにきて希望の党がその受け皿になり始めたので共産党に票が流れなくなっているとも言えます。

 政権交代への期待感という意味では、おそらくはもう少し小池百合子女史が具体的な政策の違いを自民党との対比の中で打ち出していくことが必要になっていくのですが、ここで問題となるのが民進党のリベラル勢力の行方と、連合の選挙協力判断です。

 前者でいえば、民進党の36%から39%、ざっくり三分の一がいわゆるリベラル勢力であると考えて相違ないのですが、これが実は反自民の受け皿になっていて、自民党ではない政党であればどこでもいいと考える人たちが自分の選挙区に立った民進党リベラルか共産党候補に、また比例代表では民進党または共産党と書いていたことになります。ところが、今回の希望の党にリベラル勢力が合流しない、あるいはできないとなると、もともと民進党の集票力の一角であったリベラル勢力を失うことが効いてきて、希望の党は単純に政権交代を考える小池百合子女史の応援票しか上積みできなくなることを意味します。

 そして、小池百合子女史も何を焦ったのか、改憲、消費税増税見送り、中長期での原発ゼロを主張し始めます。この時点で、すでに連合の今までの政策主張と食い違うことになり、リベラル勢力の受け入れ拒否と併せて連合は深刻な認識不調和を起こすことになってしまいます。それもあって、リベラル勢力の受け入れを拒否した小池百合子女史の物言いでは連合は協力しない可能性が出てきてしまいます。

 ここで公明党も都議会公明の立場で「国政と都政は別」と切り取られたうえで連携解消検討という話も出ると、実のところ希望の党自体は後ろ盾を事実上失い、野合というか烏合の衆になってしまうため、政策面と候補者、資金、加えて選挙を行うための組織的な裏付けという実務面でいきなり苦しむことになります。すでに民進党から脱出していた議員はともかく、これから民進党から出て希望の党から公認をもらう、あるいは新人として希望の党から立つ人たちは、そこまで凄い期待感があるわけでもない中で組織もなく準備の乏しい選挙を戦うことになりかねないのが大変です。

 そこへ、民進党は解党的出直しができないのではないかという話まで出てくるようになりました。公職選挙法上の問題もあり最終的にどう着地するかは分かりませんが、参議院議員は民進党に残留する前提のため、選挙の趨勢次第では民進党として希望の党への吸収合併に反対する人たちが前原誠司代表をリコールする可能性が出てきたという観測もあります。民進党の綱領では、所属議員の半分がリコールをすると任期中一回に限り代表の再選挙を行うことが決まっているため、リベラルの放り投げに加えて選挙での不調が露になると、合流して資金移動という狙いも不可能になります。

 希望の党への合流案は主に上層部で密やかに進められたわけですが、支持母体や候補者の選定、連合との調整や、地方組織の統率・維持までは話をつけていなかったとなると、非常に脆い連携案に過ぎず、公示前の候補者選びと連合の動き次第では早々に瓦解してしまうことになります。いまの民進党には希望の党との協力を深めること以外のプランBが存在しないのか、非常に硬直化した交渉の経過だけが漏れ伝わってくるという点で「意外に希望の党に人気がなかったときどうするか」という話し合いがうまくいっていない、前のめりになりすぎている危険があるように感じます。

 そして、自民党側も「維新、希望は改憲勢力」と言い始め、自民党・安倍政権と小池百合子女史の間で主要政策において大きな差はないことがはっきりしてきてしまいました。希望の党からすれば、次々と目新しい話題を公示後も投入し続けなければならず、どこまで期待感を煽り続けられるのだろう、というあたりはかなり焦点となったように思います。

 10月2日から順次各属性ごとの数字が出てくるため、情勢が動くとすると公示である10月10日の直前ではないか、と予測しています。さて、どうなりますか。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.202 カオスすぎてこれからどうなるの予測不能な衆院選についてとりあえず今思うことを語ってみる回
2017年9月30日発行号 目次
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【0. 序文】衆院選2017 公示前情勢がすでにカオス
【1. インシデント1】リベラル勢力は再結集の夢を見るか?
【2. インシデント2】Appleの新製品発表で感じたことなど
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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