高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

今だからこそすすめたい「カンヅメ」暮らし

高城未来研究所【Future Report】Vol.460(2020年4月10日発行)より

今週も、那覇にいます。

沖縄を拠点にした生活も、もう1ヶ月以上経ちます。
平穏だったこの街にも、ついに新型コロナウィルス感染者が増えはじめ、公設市場も閉まり、各店営業時間の短縮もはじまっています。
しかし、人通りは減ってるとはいえ、いまだ街ゆく大半の人々は、マスクをつけていません。
それゆえ、いまもマスクを街角でいつでも購入できるのは、日本中でここだけかもしれません。

現在、新型コロナウィルスの感染と拡大を避けるため、家にいることが提唱されていますが、実はこれ、文筆業の人にとっては「よくあること」で、古くから「カンヅメ」と呼ばれています。

「カンヅメ」は、作家が巧みな言い訳をしながら(これも仕事の一環だと自負!)、原稿の催促から逃げ回るのを、出版社が旅館やホテルの一室に半ば軟禁状態で滞在させて、雑念のない状態で原稿執筆に専念させることですが、実は漢字で書くと「缶詰」ではなく、「館詰」なんです!
まさに、読んで字の如し。

発祥は、湯河原の旅館に編集者だった宇野千代が、文芸評論家の小林秀雄を日本で初めて押し込めたことが「カンヅメ」のはじまりだと言われており、東京だと川端康成や三島由紀夫、池波正太郎など多くの文豪に愛された「山の上ホテル」が「カンヅメのメッカ」として知られます。
他にも出版保険組合の保養施設が、箱根、軽井沢、京都、ハワイなどにもあり(僕も何度か幽閉されました)、なかでも、歴史ある由緒正しいカンヅメ施設といえば、新潮社の「新潮社クラブ」です。

「新潮社クラブ」は、もともと新潮社の社主・佐藤家に縁のある家で、1960年代に「新潮社クラブ」という名称で、表向き社交場として、実態は「カンヅメ」施設として、オープンしました。
一階には、開高健が半年も滞在し、傑作「夏の闇」を書き上げた通称「開高健の間」があります。
開高健にとって感慨深い場所だったようで、お亡くなりなったあとも、彼の幽霊が頻繁に出るとの噂で持ちきりでした。
そこで、「幽霊でもいいので、ぜひ、お会いしてみたい」と思った二十代前半で怖いもの知らずの僕は、生意気にも「新潮クラブ」で泊まることを条件に、新潮社の仕事(カルチャー誌の執筆)を引き受けたことがあります。

念願の「新潮クラブ」で数泊し、雨足も強まったある夜、件の「開高健の間」を通りかかると、どこからともなく物音が・・・。
「ついに出たか!」と嬉しさと怖さが入り混じる不思議な気分で待ち構えると、タクシーが捕まらないと戻ってきた担当編集者が現れました。
こうして残念ながら、開高健(の幽霊)にはお目にかかれないまま、僕は朝まで見張られ原稿を書き上げ、「新潮クラブ」を後にしました。

時は流れ現在、毎年数度国内外のホテルに籠もって原稿を書き上げる「カンヅメ」生活は、いまも続いてます。
実は、ここ最近の那覇暮らしも、出版社による「カンヅメ」が理由なんです。

この間、ホテル内中庭に面したレストランに1日一度出向くだけ。
あとは、ずっと自室で執筆を続けました、モチロン外部からノイズが入ってこないように、インターネットにも1日一度だけ10分程度しか接続せず。
まさに「館詰」。

すると、どうでしょう。
やっと書き上げて、部屋から出るように世の中を見渡してみれば、日本中の僕以外の人たちが「カンヅメ」になって暮らしているではありませんか!
まるで、筒井康隆的SF小説のような光景です。

文筆業の人たちにとってみれば、「カンヅメ」は定期的に訪れる「季節の行事」のようなものですが、はじめて「カンヅメ」を体験する人たちにとっては、いったい全体どのように過ごしたら良いものか、きっとわからないことも多々あると考えます。

そこで、いまこそなにかを書けばいいんです!

「ハリーポッター」を書きはじめた当時のJ・K・ローリングは、生活保護を受ける、うつ病のシングルマザーでしたが、ある日、野原の牛を見ているうちに、ハリーのイメージが浮かんできたと言います。
彼女の奇跡は、そのアイデアをメモに書き留めたことからはじまりました。

時間は誰にも与えられた平等な指標です。
その資産を、ついに本格的に運用する時がやってきたのです。

などと、僕がもっともらしいことを「したり顔」で言うのは、あの夜から、開高健の亡霊が僕に乗り移ったからなのかもしれないな、といまさらながらに気がつきました。

オーパ!
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.460 2020年4月10日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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