やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

急成長SHEINを巡る微妙で不思議な中華商売の悩み


 いわゆる安かろう悪かろうのファストファッションで現在急成長しているSHEINについて、アメリカだけでなく日本でもその商業流通の過程に問題があるよという記事が多く出るようになりました。昨今目を惹くのは著作物を勝手にパクって安く売る模倣品事件ですが、イギリスのChannel 4が報じたように中国国内での不適切な労働集約の手法が安値の源泉だよということで国際的な非難の的になり始めています。新疆ウイグル自治区だけでなく、製造に関わる工場や流通の現場において、一日数十人の児童が行方不明になる、みたいなニュースが流れると、人の親として心をギュッと掴まれる思いがします。

 悩ましいのは、このSHEINは無店舗販売・ネット中心の商流でありながら、中国系の大手資本(一部は人民解放軍系)と見られる国際流通と、中国からシッピングされた瞬間にコンテナの中身が現金化されて還流するといういかにも華僑感のある大雑把な貿易管理によって成立している点です。つまりは、中国本土から品物が輸出された瞬間に全品売上となり、国内製造現場に資金が還流する仕組みを取っており、そこから先のSHEIN各拠点での売上はそこから載せられた価格をネットで売り捌いて独立採算となっているようだ、という問題です。カネの出元次第ではありますが、別に違法でも不正でもありませんので、いきなり問題視されることはないのでしょうが、他方で何か起きたときにいつでも切り離すことができる仕組みだなあとも感じます。何を怖れてそのようなカネの流れにしたのでしょうか。

Inside the Shein Machine: UNTOLD

 概要はChannel 4の動画を観ていただくのが早いのですが、要するに過去からの因習に則りある種の奴隷労働での安価な制作製造ができる仕組みがマーケティングに乗ってダイレクトに世界を席巻したという話になります。ただ、同じようにGAPやユニクロ(ファーストリテイリング)でも同じ構造であったことを考えると、単純にSHEINが彼ら先行した競合よりも上手くやっていたのかと言われると疑問に思う部分は多々あります。おそらくそれは中国政府の意図的な税務上の庇護下にSHEINがあり、何らかの対外的な意味を中国において担って来ていたからではないかとも思われるからです。

 昨年のBloombergでの報道内容を見るとヒントが隠されているなあといま思うのですが、トランプ政権時代の国策事業としてガワとして(ある種のダミーとして)立ち上げたはずのSHEINが圧倒的な商品構成力と安さでうっかり市場で勝ってしまい、そのカラクリも米中貿易問題激化で中国政府が経済政策上意図的にサプライヤーへの税務負担を下げ、さらに対外2Cビジネスの輸出税をほぼ全額免除したことが、中国新疆ウイグル地区でのクソ安い製造単価がダイレクトに対米、対欧、対日貿易の追い風となったことは間違いないのです。



10代に大人気「SHEIN」-米中貿易戦争のおかげで世界的ブランドに

それでも、シーインの成功は中国政府に負うところが大きい。特に米国のトランプ前政権時代の貿易戦争を受けた中国の税制変更は同社とサプライヤーのコストを劇的に軽減し、世界のライバルの競争力を相対的に弱めた。米中の貿易関係が悪化していた18年、中国は消費者に直接販売する企業を対象に輸出税を免除。また、米国に輸入される800ドル未満の小包は16年から免税の対象で、トランプ政権がその後もこの部分はそのままにしたこともシーインにプラスに働いた。

 逆説的には、これらの輸出税減免などの措置と共に、本来であればコストアップ要因以外の何者でもないシッピングや貿易保険、流通諸コストも軽減されているようにさえも思います。悪くすれば、貿易摩擦や米中対立を理由に中国から出て行った外資系アパレルが放り投げた生産能力をどういう手段か分かりませんが吸収している仕組みが人民解放軍系企業にあり、そこから設備や安い工賃を担う労働力をSHEINに集約させられる別の枠組みさえもあるように見受けられます。というか、単にChannel 4で人件費が安い奴隷労働がSHEINの競争力の源泉だと言われても、同じような企業は他にも20社以上ある中でSHEINが国際的な成功を収めることができた十分条件にはなり得ません。

 一番の問題は、何らかの事情でこのようなビジネスを実現できているSHEINを、ダンピングその他で止める以外にこれという方法が見当たらない点です。人権問題があるからSHEINの事業を差し止めるということは基本的にはできないだろうと思いますので、やるとすれば反ダンピング認定をする必要があるのでしょうが、ところが、渋谷区広尾にあるSHEIN JAPAN株式会社は調べる限りではグループ会社の日本代表ではなく、独立した事業者が日本で専属的にSHEINの取引を総代理しているという仕組みになっているようです(諸説あります)。つまり、SHEIN社がグループとして問題だと日本法人を呼び出して法的責任を負わせて仮に業務改善命令を出しても、私たち決められた条件で中国から販売された契約に則って輸入したグッズを配送しているだけなので知りませんという話になるのではないかとも思います。

 ちょっと良く分からないことも多いのですが、似たような問題として中華系ガジェットや通信機器、ゲーム機器、雑貨では似たような越境ECの仕組みで経営されている中華事業者がたくさんあります。実質的に日本には代表者を置かず、販売は独自サイトで中国国内にサーバーが立って売上を上げており、パンアジアの総販売責任者はシンガポールにあるでござると堂々と表記されているため、国内法では対処ができません。

 会社はシンガポールで電話はシンガポールで代表者はシンガポール人らしいのですが、日本で消費者トラブルがあったときどこに連絡をすればいいんでしょうかという。

SHEIN- 特定商取引法に基づく表示

 これもう消費者問題とかいうレベルではなく、外為とか国際貿易事案として問題視されるものなんじゃないのと思いますし、WTOのようなユニラテラルな課題解決を考えるべきものであって、どないに着地させるねんというのは非常に大きな課題であろうと思います。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.388 急成長で話題の中華ファッションブランドについて大いなる懸念を覚えつつ、ヤフーニュースやSNSが抱える問題について語る回
2022年11月30日発行号 目次
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【0. 序文】急成長SHEINを巡る微妙で不思議な中華商売の悩み
【1. インシデント1】ヤフーニュースを巡る議論と配信する情報の扱い問題
【2. インシデント2】イノセントなSNSの時代の終わり
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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