※高城未来研究所【Future Report】Vol.665(3月15日)より
今週は、東京にいます。
この冬は基本的に東京に滞在しながら日本各地を回っておりまして、以前は訪れた旅先で走るのを日課にしていましたが、いまではランを減らしてファストウォーキングばかりになりました。
その理由は、執筆スタイルが完全に変わったことにあります。
iOS16が落ち着いて以降、文字入力の8割以上を音声入力にしましたので、以前は考えられなかった「執筆を歩きながら行う」ようになりました。
少し前まで、トレーニング中は音楽を聴く程度しか同時に何かを行うことが物理的にできませんでしたが、テクノロジーの進化とともに自分の創作スタイルも進化し、今では適宜ランジを取り入れた独自のファストウォーキングしながらと、執筆するように変わりました。
よく「旅行先でも運動なされますか?」と聞かれることが多く、以前は「トラベル&ラン」と名打って、あちこちの街に行くたびに観光を兼ねて走っていました。
しかし、今は走るのではなく、ファストウォーキングしながら、街を見たままま&感じたまま書くようになりまして、いわば「ライブ・ライティング&トレーニング」が日課です。
他ならぬこの原稿も東京の街をファストウォーキングしながら執筆しており(いま、北千住です!)、こうして歩きながら書いた原稿を最終的にはiPhoneやiPadなどで修正して1つの原稿に仕上げるのですが、音声入力は僕の執筆スタイルを大きく変え、場合によっては、脱キーボードどころか脱Macに至るかもしれないほど大きな端末革命ではないかと感じています。
かつて作家の村上春樹がランと執筆作業は、コインの表裏のような関係であると述べていましたが、この時代的にはコインの表裏は同時に存在する、ある意味、量子力学的執筆スタイルと言えるかもしれません。
かつてビート世代の作家たちが、タイプライターの登場と共に旅に出て、気の向くままに執筆してあたらしい文体を生み出したように、
歩いていると脳がリフレッシュされ続け、文体も変われば、書く内容も大きく異なります。
その上、執筆速度も相当速くなり、僕はキーボードを叩くのがそれなりに早い方だと自負しますが、まるでAIが容赦ない速度でテキストを生成するかのごとく、キーボードの数倍の速度で次々と原稿が生成されていきます。
世の中、プレゼンテーションやYouTubeなど自分が出てしゃべることがとても大切な時代になったと思いますが、全く違う形で話すことがそのまま換金できる時代になったと頓に感じています。
本来「執筆」とは、筆を執ること=手に筆を持って運用することですが、筆を使わないばかりか、「書く」ワケでもキーボードを叩くワケでもなく、ひたすら話して「iPhoneが書いている」現状は、果たして「執筆」と言えるのか、いまだわかりません。
書く=writeとは、もともと木や樹皮を傷つけて文字を彫るというラテン語が語源で、それゆえに日本でも「書く」という言葉は「掻く」に通じ、ハードディスクにも「書き込む」といいますので、正確には「iPhoneのRAMに書き込んでいる」とも言えます。
近年、新しいデバイスが登場すると、スペックがどうの、速度がどうのといった議論が散見される中、本来は新しいディバイスに合わせてライフスタイルや仕事の仕方も変えなければなりませんが、多くのユーザーたちは単に効率だけを追い求め、自分を変える様子が伺えません。
通りがかりに入ったカフェで、コンピュータを広げ、慌ただしくキーボードを叩く人を見ると、どこか懐かしい感じを覚えます。
確かにiOS16以前の僕もそうでした。
人はアップデートするものだと、早歩きしながら実感する今週です。
そろそろ春を感じます。
高城未来研究所「Future Report」
Vol.665 3月15日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
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