高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

睡眠スタイルを見直す

高城未来研究所【Future Report】Vol.752(11月14日)より

今週も、バルセロナにいます。

デジタルノマドビザ申請にお越しになった方や、このメールマガジンのQ&Aでも多くのお問い合わせをいただくのですが、日本のクライアントとリモートワークで働く場合、一番のお悩みがリアルタイムなオンラインミーティングのご様子です。

日本とスペインでは8時間(夏季は7時間)の時差がありまして、これをどのように解決すべきか、皆さんお考えのようです。人によっては、時差が少ない東南アジアやオセアニアを選ばれるようですが、住む場所を変え、生き方や働き方を変えるのであれば、一度、睡眠を見直すことを個人的には強くオススメしています。

実は「一晩にまとめて8時間ほど眠る」睡眠スタイルは、歴史的に見ると極めて新しい習慣です。この常識は産業革命以降に定着し、工場労働やオフィスワークといった特定の時間帯に労働力を集中させるあたらしい社会システムのため、人々の睡眠パターンまでも規定した資本家に都合の良い仕組みに過ぎません。そして朝、労働者はコーヒーと砂糖で目を覚まして、活力を得るのもこの時期はじまったワークスタイルでした。

しかし、インターネットが世界を覆い、場所や時間に縛られない働き方、いわゆる「デジタルノマド」が現実のものとなった今、いまこそその「睡眠の呪縛」から解放されるべき時に来ているのではないでしょうか。そのひとつが、人間本来の睡眠である「多層睡眠」を試してみることです。

多層睡眠とは、1日の間に複数回、短時間の睡眠をとる方法です。たとえば、夜に5時間ほど眠り、昼間に20分から30分の仮眠をとる、あるいは夜に2回に分けて眠るといったスタイルです。この睡眠法は、脳のリフレッシュや集中力の向上に大きく寄与し、生産性を高める効果がある事が様々な研究から明らかになっています。
事実、歴史的にも多くの著名人が多層睡眠を実践していました。レオナルド・ダ・ヴィンチ、トーマス・エジソンやニコラ・テスラも、短時間の仮眠を繰り返すことで長時間の集中力を維持していたと言われています。建築家のバックミンスター・フラーは「ダイマクシオン・スリープ」と称して、6時間ごとに30分の睡眠をとるライフスタイルを公言していました。

現代でも、多層睡眠を実践している有名人は少なくありません。俳優のマット・デイモンは、忙しいスケジュールの中で短い仮眠を活用しており、また、シリコンバレーの起業家やエンジニアの中には、昼間に20〜40分の仮眠をとることで(いわゆるパワーナップ)、午後からの集中力を高める人がとても多くいます。こうした人々は、睡眠の質を重視し、無理に長時間眠るのではなく、自分の生活リズムに合わせて睡眠を調整しているのです。

もし、デジタルノマドとしてスペインに移住した場合、多層睡眠は特に有効です。スペインには「シエスタ」という昼寝の文化があり、多くの企業や店舗が午後1時から4時頃まで休業し、人々は昼食後に短い仮眠をとります。この習慣は、暑さを避けるだけでなく、午後の活動に備えてエネルギーを回復するための知恵でもありました。
スペインに住みながら、日本とオンラインミーティングを行うデジタルノマドにとって、このシエスタ文化は非常に都合が良く、15年以上前に出した自著にも、僕がスペインを気に入った理由に、気候や食事のほか、このシエスタ文化、つまり多層睡眠が身体にあっていると書いたことがあります。

電気のない時代、人々は日没とともに寝入り、夜中に一度目覚めて、祈りや執筆、読書、あるいは家族と静かに話をしたのち、再び夜明け前に「第二の睡眠」に入っていました。歴史学者ロジャー・エクロイドはこれを「二段階睡眠」と呼び、これこそ人類の本来のリズムだと指摘しています。実際、動物のほとんどは多相睡眠です。猫や犬は一日中うたた寝を繰り返し、赤ん坊も一日に十数回寝たり起きたりを繰り返します。

また、人間の体には、約24時間の周期で動く精密な時計が備わっています。それが「概日リズム(サーカディアンリズム)」と呼ばれる生理的な時間の流れです。このリズムを司っているのは、脳の中心部にある「視交叉上核(SCN)」と呼ばれる小さな神経核で、ここが体内時計のマスタークロックとして働き、外界の光、特に青色光や食事、運動、そして社会的な活動などから信号を受け取り、体全体のリズムを調整しています。
人間の身体は、この24時間のリズムのもとで実に多くの機能を動かしており、体温は一日の中で上下し、朝には覚醒ホルモンのコルチゾールが分泌されて活動を促し、夜になるとメラトニンが増えて眠りを誘います。また、インスリン感受性や血糖値の変化、心拍や血圧のリズム、さらには免疫の働きまでも、この体内時計に支配されています。
そして、この概日リズムには、人間が「自然に眠くなるタイミング」が一日に二度訪れるように組み込まれています。一度目は夜で、体温が最も低くメラトニンがピークに達する時間帯。二度目は昼過ぎ、体温が一時的に下がり、集中力が緩む時間帯です。そう、多くの人が午後の眠気を感じる、あの瞬間です。
つまり、人間の身体には、いまも「二相的な睡眠構造」が刻まれているのです。夜に深く眠り、昼に短く休む。それが人間の本来のリズムであり、この自然の波に合わせた生き方こそ、現代人が忘れかけている時間の智慧なのかもしれません。
では、何時に起きるのが望ましいでしょうか? 

実は世界中で多くの歴史的偉人が「午前3時に突然目が覚める」体験をしています。医学的には「サーカディアンロー(生命力が最低になる時間)」と言われる時間帯ですが、テスラはこの時を「宇宙からの招待状」と捉えていました。
キリスト教では「イエスが十字架で息を引き取った時間」、イスラム教では「神が地上に降りる神聖な時間」、ヒンドゥー教では「宇宙エネルギーが最高潮に達する時間」とされ、共通して神秘的な意味がある時間だと古来から考えられていました。
テスラは「私の脳は単なる受信機だ」と語り、午前3時に人間の脳が宇宙に漂う無数の周波数(インスピレーションの源)を最も敏感に受信すると考えていたのです。

偉大な発明や芸術作品は、頭の中で生み出されたのではなく、どこか「外部」からやってくると考える人は少なくありません。 睡眠中、特に「ヒプナゴジア(眠りと覚醒の間)」状態でインスピレーションを得やすいのは、僕の実体験からも同意するところでもあり、テスラやダリ、エジソンらがこの状態を利用してクリエイティブなアイデアを得たと幾度となく話しています。

AppleのCEOティム・クックは 毎朝4時頃起床して、1番最初に多数のメールを処理して指示を出す習慣があると公言しており、以前もお伝えしたアーユルヴェーダの古典的な教えでは、「ブラフマ・ムフルタ」と呼ばれる時間帯=日の出の96分前(約1時間36分前)に起きることが、最も心身に良いとされています。
サンスクリット語で「ブラフマ」は創造の原理、「ムフルタ」は約48分を意味し、つまり「創造の時間」が2ムフルタ=96分続くという意味を持ちます。
この時間帯は、空気中のプラーナ(生命エネルギー)が最も澄みわたって、思考が静まり、瞑想・祈り・学び・執筆などの精神的・創造的活動に理想的だとされ、古代インドのリシ(聖者)たちは、この時間に起きて呼吸法や瞑想を行い、日の出とともに心身を「自然のリズム」に調律していたのです。

つまり、夏は日の出の96分前にあたる午前3時ごろに起き(冬なら4時半ごろ)、午後シエスタする。これこそ、人間本来の睡眠サイクルであり、デジタルノマドならでは睡眠方法のように考えています。一見、最先端のように思えるデジタルノマドの本質は、実はデジタルではなく「ノマド」にあります。
本来の人間らしさを取り戻す回帰運動。それこそがノマド的なのだろうと思う今週です。
時差にお悩みな方は、ぜひ一度睡眠スタイルの見直しを!
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.752 11月14日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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