※高城未来研究所【Future Report】Vol.438(2019年11月8日発行)より
今週も先週に引き続き、ハバナにいます。
日本の一部の人たちから理想郷のように語られるキューバは、1959年親米で軍事独裁のバティスタ政権を弁護士だったカストロが打倒して以降、アメリカからの経済制裁を受け、1991年には主な支援元であったソビエトが崩壊すると、まもなく経済危機どころか食糧危機に陥りました。
ソ連崩壊前の1989年、国民へのカロリー供給量は1日3000kcalありましたが、1994年には1900kcalに激減。
物資が乏しく食料やエネルギーを輸入に頼っていたキューバは、食料自給率を上げるため選択の余地なく有機農業を選ばなければなりませんでした。
なにしろ、食料の60%近くを輸入に頼っていたため、また、農薬が手に入らなくなってしまったことから、政権は早急な食料増産を迫られます。
ここから、奇遇にも石油エネルギーや化学肥料を使わない本格的な有機農業がスタートしました。
国を挙げて土壌を検査し、堆肥づくりに適したミミズを選び、都市の空き地を農地に変え、「キューバは有機野菜大国になった」といった言説が駆け回ります。
しかし、事実は少し異なります。
キューバはかつても今も,輸出する砂糖用のサトウキビの生産が多く,もともと食用作物の自給率も低く,海外から多くの食料を輸入しています。
その上、化学肥料を輸入ではなく、ソ連崩壊後、自国で生産するようになりました。
それゆえ、近年市内には「オーガニック」をわざわざ標榜するレストランが増えているのです。
また、キューバには、有機農業に関する明確な規定もなく、あわせて有機農産物認定機関も存在しません。
したがって、キューバの有機農業を諸手を挙げて賛成する人は、欧米の有機農業の基準とは、まったく異なるのを無視しています。
今回、僕はジャーナリストビザを取得し、正式にキューバ国内で撮影や執筆をする許可を得て、日々コーディネータ(国家公務員か準公務員)に案内いただいていますが、正直、上手くいってるところだけを見せていると思えました。
当たり前ですが、国家がビザを許可したジャーナリストに、問題となるような箇所を案内するわけがありません。
また、不思議なことに、キューバの有機農業を殊のほか持ち上げているのは日本人だけのようで、事実上の敵対関係にある米国はさておいても、欧州や他のスペイン語地域でも、キューバの有機農業に注目している国はないのです。
一部の日本で、まるで理想郷のように取り上げるキューバ。
他に類を見ないと僕が感じるのは、近くて遠い米国との距離感だけなのですが、これこそ一見の価値があります!
なにしろ、街中に広告が一切ありません。
もしかしたら、この広告規制こそ、オーガニック以上に少しは見習わねばならない未来なのかもしれないと思う今週です。
高城未来研究所「Future Report」
Vol.438 2019年11月8日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
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