※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2017年2月24日 Vol.117 <したたかな戦略号>より
1月5日、AV家電の相互接続規格の認証を運営してきたDigital Living Network Alliance、通称「DLNA」が解散していることがわかった。経緯については、以下のAV Watchの記事が詳しい。
・DLNA解散。13年で40億台の音・映像のホームネットワーク相互接続を認定
DLNAは映像・音を扱うホームネットワークのデファクトスタンダードであり、特に日本では、家庭にある多くのデジタル家電で使われている。そのため、「もう使えなくなるのか」「別の規格に役割を交代していくのか」といったイメージをもった人も多いようだ。
だが、それはちょっと違う。DLNAは使われなくなることもなく、別の規格に置き換えられることも(短期的には、だが)ない。単に相互接続認証の機関の形が変わるだけだ。またそもそも、DLNAは「規格」としてはずいぶん特殊な部分がある。DLNAは拡散し、同時に「規格としての運用は限界を迎えた」とも言える。
その辺を理解するには、DLNAの成り立ちを知っているとわかりやすい。
DLNAはネットワークプロトコルであるUniversal Plug & Play(UPnP)をベースに、インテル・マイクロソフト・ソニーなどが中心となって開発した。当初はDigital Home Working Group(DHWG)という名称だったが、2004年に規格を正式に定める時期に前後し、現在のDLNAに改称した。
その中身を一言でいえば「シンプル」に尽きる。相互接続規格というと、できること・できないことが厳密に定められている印象があるだろうが、DLNAはそうではなかった。ネットワーク内でUPnPを使って対応機器をみつけて接続すること、各サーバーに記録されたデータがどんな形式の情報を扱っているかをやりとりすることなどの規格は定まっているが、再生可能な画像・映像・動画のフォーマットはごくごく基本的なものが「必須」と定められている程度であった。すごく極端に言えば、「ネットワークストレージにアクセスし、ファイルをとってくる仕組みだけが決まっていて、再生は機器の性能に丸投げ」だ。NASのフォルダを開くこととの違いは、「機器の側のUI」「ネットワーク内で対応機器が見つけやすい」ことくらい、とも言える。
だから、「つながった」としても、「再生できる」かどうかは確実ではない。具体的には、再生する側の機器・ソフトウエアがどれだけのフォーマットとトリック再生をサポートしているか、という部分に依存する。また、再生側の機器が対応していない画像・映像・音楽フォーマットのデータを再生できる形に変換して伝送する「トランスコード」の仕組みも、規格としては定められていない。シンプルすぎて、「DLNAでネットワークを構築したはずなのに、ファイルの再生ができない」ことがよくある。ユーザーとしてはちょっとわかりにくい仕組みだ。
だが、これを「特定のメーカーの機器同士をつなぐもの」と規定すると、話は変わってくる。技術はシンプルだから実装はしやすいし、つながる機器も再生するデータも特定できるから、動作保証もしやすい。DLNAには不足している部分、例えばEPGの扱いやトリックプレイの高速化などを、メーカー側が独自拡張して実現することもできる。
そのため、「同一の家電メーカーのテレビとレコーダーをつなぐもの」としては、非常に広く使われることになった。DLNAとは言っていないものの、実際にはDLNAを使って実装されているものは非常に多い、というか、レコーダーとテレビをつなぐホームネットワークや、ホームサーバーと再生機器をつなぐオーディオネットワークは、ほぼDLNAをベースとしている。SIEのテレビレコーダーである「nasne」もDLNAをベースにしたものだ。
再生保証は完全ではないものの、DLNAがベースなので、メーカーをまたいだ接続をユーザーの責任で行うこともできる。シンプルなソフトウエアスタックなので、ネットワークストレージへの実装も容易だ。
DLNAがホームAVネットワークの汎用規格として広がりきれなかったのは、ある種の「ゆるさ」が理由だった、と思う。普通の人が使うには色々面倒だったのだ。だが、メーカー側としては、技術実装が容易であり、非常に使いやすいものだった。DigiOnなど、DLNAをベースとしたミドルウエアを作る企業が複数あり、ソフトウエアを調達してくればすぐに製品へ実装できた、ということも大きかった。
その流れは今後も変わらない。DLNAという名前は使われなくても、あまりに基本的なプロトコルとなったため、今後もUPnPベースのAVネットワークは使われていく。だが、ここまで基本的なものになると、わざわざメーカーが集まってコンソーシアムを組む意味も失われてしまったわけだ。
個人的には、ファイルフォーマットの詳細やトランスコードの仕組みは初期から規格の枠内できちんと定めておいて欲しかった。そうすれば、再生互換性でユーザーが迷うことは少なかっただろう、と思うからだ。だが、当時のプアな能力のデジタル家電に実装するために、メーカー側が「重い規格」を嫌った部分があり、そうはならなかった。
DLNAという名前がなくなっても使われ続ける、という形がよかったのか、それとも、DLNAというソリッドな規格として初期からずっと続く形が良かったのか。なかなかに悩ましい話ではある。
繰り返しになるが、とにかく、DLNAはなくなるが、その機能は残る。あたりまえのものになって拡散し、これからも様々な機器で使い続けられることだろう。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
2017年2月24日 Vol.117 <したたかな戦略号> 目次
01 論壇【小寺】
「自撮り」へ転換するカシオの戦略
02 余談【西田】
DLNAは「なくなるがなくならない」
03 対談【西田】
ドワンゴ・岩城進之介さんに聞く「リアルとデジタル」のぼかし方(1)
04 過去記事【小寺】
めまぐるしく変わるトレンドに、デジカメの未来を見る
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと
コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。 ご購読・詳細はこちらから!
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