本田雅一
@rokuzouhonda

メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」より

Appleがヒントを示したパソコンとスマホの今後

※この記事は本田雅一さんのメールマガジン「本田雅一の IT・ネット直球リポート」 Vol.022(2018年6月9日)からの抜粋です。




言うまでもないことですが、ここ数年は情報ツールとしてのパソコンの存在感は落ち続けています。何かデジタルの制作物を得る上で重要な道具であることは間違いありませんが、ライフスタイルに寄り沿った製品としてはスマートフォンのほうが圧倒的に個人に近い道具となっています。しかし、そうは言ってもパソコン世代の僕らにとって、パソコンがもっとも重要で気になる道具であることに変わりありません。

WWDC 2018で発表された新しいMacOS「Mojave(モハベ)」について、アップルは興味深い発表をしました。「iOSとMacOSは統合されない」というメッセージを発した上で、iOS用アプリをMacOSで動かす仕組みを提供すると話したのです。

iOSアプリはタッチパネルを用いたユーザーインターフェイスが用いられますが、Macにはタッチパネルはありません。キーボードとマウス(トラックパッド)を使って操作しますから、画面レイアウトから操作手順から、あらゆることが違います。

スクロールバーの有無もありますし、そもそもiPadに画面分割モードがあるとはいえ、基本的に画面サイズ、縦横比の自由な変化は考慮されていないことがほとんどです。ドラッグ&ドロップもiOSデバイスにはありませんよね。

こうしたユーザーインターフェイス要素は、MacOSではAppKit、iOSではUIKitというクラスライブラリが受け持っています。そこでUIKitをMacOSでも動作するよう移植することで、iOS向けに開発されたアプリをMacでも動かそうということです。

もちろん、iOSデバイスはARM、Macはインテルのプロセッサーを使っていますから、Mac用にコードは生成する必要があります。ではユーザーインターフェイス設計はXcode上でどうするのか? 現時点ではアップル社内で使われているだけのため、来年、一般の開発者に公開されたときにどうなるかはわかりませんが、アップルの担当者によると、現在はXcode上でiPad向けアプリとして設計したものをMacOS向けに再コンパイル(プログラム実行用バイナリファイルの再生成)するようになっているとのこと。

ここから先は推測ですが、背景としてiPadアプリでスプリットウィンドウをサポートするようにしたことも、MacOS向けに再コンパイルできるようになった理由かもしれません。ただし、iOSデバイス向けのアプリは数100万の単位で存在します。それらがすべて、再コンパイルしただけで、MacOS上のUIKitが正常に動作するか? と言えば、そこにはさまざまな問題が横たわっているに違いないでしょう。正常に動作しないケースもあるでしょう。

そこで今年は「自分たちで毒見をする(アップルの担当者談)」意味で、iOSの代表的なアプリをいくつかMacOS上でも動作する形で再設計したわけです。その開発を通してMacOSでも互換性のあるiPadアプリの設計ノウハウを溜め、WWDCやデベロッパーネットワークを通じて発信することで、来年以降の一般公開に備えようということですね。

一般論として、生産性を高めるツールはMacのようなパソコン用アプリケーションのほうが使いやすいものですが、ウェブサービスを受け身で使ったり、特定の情報を集めて整理、表示したり、決まったシナリオの中で選択肢を選んでいくことで結果を得るようなアプリケーションなどは、iOSデバイスのほうが使いやすいものです。“パソコン”という意味では、MacもWindowsパソコンも、その生産性に大きな違いはなくなってきていますが、iOSの数100万というアプリがMacでも利用可能になるのであれば大きな魅力へとつながっていくかもしれません。また、開発者側から見たビジネス機会として考えても、MacOSとiPadの両方が顧客ターゲットとなりうるため、アプリマーケットの活性化という面でも魅力的となるのではないでしょうか。

もちろん、まだスタート地点。きちんとこのプロジェクトが機能するかどうかは、来年の一般開発者向け公開を待つ必要がありますが、個人的にはどこまで完成度を高めることができるのか、久々にワクワクしています。

 

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2014年よりお届けしていたメルマガ「続・モバイル通信リターンズ」 を、2017年7月にリニューアル。IT、AV、カメラなどの深い知識とユーザー体験、評論家としての画、音へのこだわりをベースに、開発の現場、経営の最前線から、ハリウッド関係者など幅広いネットワークを生かして取材。市場の今と次を読み解く本田雅一による活動レポート。

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本田雅一
PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

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