
これはやってしまいましたなあ、と思うんですよね。
こんなインチキが罷り通ってはいけないと思う部分もあるんですけれども、つまりはナビタスクリニックが行った抗体検査というのは、久住英二さんや上昌広さんが書いておられるように「あくまで、コロナウイルスへの感染が気になって不安になり、検査を受けたいと思い、ナビタスクリニックを知り、そこで一回5,500円の抗体検査を受けた200人の勇者」という限られた眷族が集った結果でしかないのですよ。
当然、この標本は、例えば東京都1,300万人でも同じ割合でIgG抗体を持つ人がいるはずだ、というような「代表性」をもっていません。ましてや、男女、年代、家族構成、既往歴その他の背景調整はされておらず、第三者からの査読や検証が可能なだけの対照性も備えていません。
ましてや、ここで使われているクラボウ製と思われる検査キットの感度も特異度もはっきりとは分かっていません。EARL先生が言うには、感染症センターでは使い物にならないと評されている代物であるようなので、だとするならば、むしろ利益相反(COI)が疑われる案件で気になります。
やはりクラボウでしたか。国立感染研の検証結果がズタボロでとても使えないやつじゃないですか https://t.co/Xq9EhGWINL
— EARLの医学ツイート (@EARL_Med_Tw) April 20, 2020
要は「これはナビタスクリニック内のカンファレンスなどで『うちに来た保険外の外来さんを調べてみたら、5.9%の抗体を持ってたっぽいです」という以上のものはないわけですよ。
さらには、医学論文以前の問題として、調査をかけて公表するのであれば、当然のように倫理委員会の査定を踏まなければならないのではないかと思うのですが、いまのところどこかの倫理審査を受けたという記述も見当たりません。もしもなんらか速報や予備的なサマリーがあるようであれば、これは見てみたいとも思います。
これらの問題をすべてクリアするとはちょっと思えませんが、この内容であるならば信頼区間もへったくれもなく、おそらくは傾向値として参考にすることはできても何らかの施策の根拠になることはまったく無いと言えるでしょう。
ただ、いずれにせよ厚生労働省が本来は4月末から始めるとされていた広域の抗体検査がきちんと行われれば、それに見合った感染者数の推定は統計的に出ると思います。厚生労働省には「早くやってね」という以上の要望もないのですが、まさかナビタスクリニックがこんな愚かなことを現場無視でしでかすとは思いもよりませんでした。
そして何より、こういうことを平気で一面に掲載してしまう東京新聞のリテラシーのなさに加えて、実質的にフェイクニュースと言っても差し支えのない、統計的に意味を持たない内容についてどう思っているのか聞いてみたい気持ちもあります。心配になってナビタスクリニックに電話して、カネを払って抗体検査を受けている人の割合が微妙な精度のキットにておよそ6%だったからといって、それが具体的に何の参考になり、誰かの行動の役に立つのか分かりません。
もちろん、今後厚労省の広域調査をやってみたら、やっぱりIgG抗体を持っている日本人は6%近くいた、ということはあり得ます。しかしながら、そうであったとしてもナビタスクリニックのデータが当たっていたということにはなりません。その標本が、母集団において代表性を持つのかしっかりと検証し、適切な倫理審査を経て価値のある知見になっていない限り、この報道も、この調査も問題が大きいと是非認識していただきたいものです。
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」
Vol.296 東京新聞一面記事の是非を問いつつ、コロナ禍の最中における情報リテラシーのあり方や危機を迎える大学運営の今後を憂える回
2020年4月30日発行号 目次

【0. 序文】東京新聞がナビタスクリニックの調査を一面で報じたフェイクニュース気味の事態の是非
【1. インシデント1】コロナ流行と情報リテラシーのせめぎ合い
【2. インシデント2】コロナウイルスでクソ大学の再編はあるのだろうか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. 補遺】有料noteに追記した内容と、相場観についての補足
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」のご購読はこちらから

その他の記事
|
「韓国の複合危機」日本として、どう隣国を再定義するか(やまもといちろう) |
|
ヘヤカツオフィス探訪#01「株式会社ピースオブケイク」後編(岩崎夏海) |
|
影響力が増すデジタルノマド経済圏(高城剛) |
|
暗い気分で下す決断は百パーセント間違っている(名越康文) |
|
人生に活力を呼び込む「午前中」の過ごし方(名越康文) |
|
「スポンサードされた空気」のなかでどのように生きて行くべきなのか(高城剛) |
|
石田衣良がおすすめする一冊 『ナイルパーチの女子会』柚木麻子(石田衣良) |
|
音声で原稿を書くとき「頭」で起きていること(西田宗千佳) |
|
「本当かどうかわからない数字」に左右され責任を押し付けあう日本社会(高城剛) |
|
ボツ原稿スペシャル 文春オンラインで掲載を見送られた幻のジャニー喜多川さん追悼記事(やまもといちろう) |
|
テープ起こしの悩みを解決できるか? カシオのアプリ「キーワード頭出し ボイスレコーダー」を試す(西田宗千佳) |
|
コンデンサーブームが来る? Shureの新イヤホン「KSE1500」(小寺信良) |
|
21世紀に繁栄するのは「空港運営」が上手な国(高城剛) |
|
「支持政党なし」の急増が示す政治不信の本質(やまもといちろう) |
|
眼鏡っ子のための心を整えるエクササイズ(名越康文) |











