※高城未来研究所【Future Report】Vol.467(2020年5月29日発行)より
今週も、沖縄本島北谷町にいます。
6月14日まで乗り入れ禁止だった沖縄在日米軍基地内に入れるタクシーも一部前倒しで解禁になり、周辺に遊びに出かける「Yナンバー」(つまり、米軍関係者)を数多く見るようになりました。
少し前まで、事実上の「コンディショングリーン」(5段階に区分された警戒レベルの下から2番目デフコン4の通称)同然で、軍関係者の基地外への外出や繁華街への立ち入りなどが禁止されていた反動だと思われますが、まだ、全面解禁された様子ではありません。
かつては、米兵たちの遊び場といえば、コザ(現沖縄市)と決まっていました。
コザは、本来の地名、胡屋(GOYA)を誤認し、米軍の指令によってキャンプ・コザがスタート。
そのまま、日本で唯一の片仮名表記名の市となりました。
もともと、農業などを営んでいたごく一般的な沖縄の村でしたが、極東最大の米軍基地である嘉手納基地(旧日本陸軍中飛行場を接収し拡張し、現在も日本最大の空港である羽田空港の約2倍を持つ巨大基地)を背景に、離島からも多くの人々が職をもとめて集まり、地域は急速に発展。瞬く間に、巨大な南国の歓楽街が形成されました。
日本最初のショッピングモールができたのも、この地がはじまりで、近年、米軍専用ゴルフ場だった場所が返還されてできた巨大ショッピングモール「イオン沖縄ライカム」のライカムの名は、「琉球米軍司令部」(Ryukyu Command headquarters)の通称「RyCom」から取られています。
当時、まだまだ感染症が蔓延していた沖縄には、「Aサイン」という制度があり、これは「衛生面などで合格」とされた店に提示され、その提示がない店には米軍人の立ち入りが禁止されていました。
表玄関の諸見大通り(復帰前までは軍道5号線)から、人種差別の激しかった米国社会システムがここにも反映され、黒人街の照屋、白人街の八重島などに区分され、周囲のパラダイス通り、BC通りなどの繁華街でも、人種の交差点となる場所は、どこにもありませんでした。
このあたりのピークは、1970年。ベトナム戦争が激化し、有り金すべてを一晩で使う人も、後を立ちません。明日、出撃する最後の夜の街が、コザだったのです。
ベトナム戦争が終わり、東西冷戦の緊張が溶けるとともに、米兵の数が急速に減少。日本でもっとも早いシャッター通りの誕生となります。
近年は、観光業という名目の中華圏経済に、どうにか支えられてきました。
この街の変化は、日本の未来を先取りしているようにも思えるほどです。
以降、地域経済は疲弊し、いまもこのあたりでもっとも人気がある職業は、基地内で働くこと。
職種にもよりますが、なかには競争率30倍を超えるものもあり、米軍基地の仕事は安定している上に(日本政府からの予算も相当大きいので)、国家公務員並みの待遇を受けることができて、平均的な沖縄の企業に比べても労働環境が良いということから、 英語さえできれば、基地で職を得ることが可能です。
街を歩けば、この近辺で基地就職を目指した英語学校の看板を数多く目にし、現在も、1万人近い人たちが、米軍基地内で働いています。
ちなみに、観光業は若者にとって、組織の上下関係が厳しく、魅力的な職場ではないという調査結果が出ており、事実、移住者ばかりが目につきます。
いわば、沖縄振興として巨額を投じられた観光予算も、いまだに実態は、県外に流れ出ている構造だと、よくわかります。
米軍によって人工的につくられた街、コザ。
沖縄市となった現在でも、ここには、20世紀の日米関係がいまも残ると感じる今週です。
高城未来研究所「Future Report」
Vol.467 2020年5月29日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
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