やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

菅直人さんVS橋下徹さん&日本維新の会を「ヒトラー」と指弾し揉めるの巻


 このあたりは菅直人さんの持論でもあるため、いつかやるんだろうなと思っていたんですが、やっぱりやったなあという印象です。

菅直人元首相が維新巡りヒトラー想起と投稿

 自民党がなぜか中道になってしまうぐらい、いまの野党界隈は熱く、右に維新、左に立憲&共産がいて、むしろ自民党批判よりも維新VS立憲・共産という謎の戦争が始まっていて興味津々です。

 ご承知の通り前回の衆議院選挙で日本維新の会が全国政党としてもおおいに躍進を遂げ、また、いわゆる熱い時期が過ぎればおおむね2か月ぐらいで政党支持率も平常運転となるのが一般的な中、維新の会への支持率はそう下落することなく野党第一党である立憲民主党とほぼ似たような数字でうろうろするようになって、求められていたのはそういう「右派系野党」だったんだなあと改めて思います。よく考えたら、忍者・渡辺喜美さんが率いたみんなの党も、熊手8億円事件で資金バックにDHC吉田さんがいるとバレるまでの黄金期は野党第一党には手が届かないものの十分に存在感を示せるだけの支持を集めていたことを思い返すと、我が国にはそれだけ「自民党保守派では生ぬるい。もっと国民は国家に誇りを持つべきだ」と考える日本人有権者がいて、しかも政治に不満を持っていたことになります。

 そういうところを維新が拾って持っていったわけですが、裏を返せば、野党がいままで「野党勢力は頑張れば無党派層を総どりできる」と考えていたわけなんですよ。もちろんその見通しはとても甘かったことになりますが、右派系思想を持つ人たちがそれなりの割合で自民党にも左派系野党にも投票せず無党派でいた時代は、掘り起こせば掘り起こすほど自民党に投票していた傾向がありましたので、維新が出てきたことで左派系野党が野党共闘路線の中で理想としていた「無党派層総どり」の画餅感は凄かったんでしょう。

 で、菅直人さんは東京18区でギリギリ自民・長島昭久さんに勝利し、元総理としての威厳を保った形になりますが、元総理としてよりもいまや左派系活動家の親玉としての本来の地金が表れていて、これはこれで一貫していてたいしたもんだなと思うわけです。ある意味で、左派系野党の思想や考え方が純化した人たちの象徴であることには変わりなく、そうであるがゆえに、政治的にも政策的にも出自としても全く相容れない日本維新の会や、橋下徹さん、松井一郎さんといった方面には生理的嫌悪感にも似た率直な感情を吐露されてきました。

 今回は、特にTwitterという誰もが見られるSNS上での発言で名指しでやったこともあるため、当然のようにヒトラー扱いされた橋下徹さんは怒るし、維新も党として抗議しないわけにはいきません。一方で、菅直人さんも確信犯というか本当にそう思っているわけで、そうであるからこそ、折れないしどうしようもないわけです。その結果、本来なら野党の左右から中道の現政権自民党を批判していくべきところ、自民党そっちのけで場外乱闘になってしまうのは国民にとっての不幸とも言えましょうか。

 ただ、政策論の所作として特に思うのですが、一連の維新VS立憲のすったもんだというのは現実的な政策のずれを浮き彫りにし、どういう日本にしたいと両党が思っているのかがきちんと露になったという点で、騒動単体としては下品ではあるけれども結果的にいろんなものが整理されたんじゃないかと思うんですよ。もちろん、為政者として菅直人さんが政権を担ったときは不幸にして東日本大震災とそれに伴う東京電力福島第一原発事故が発生し、陣頭指揮を執った菅直人さんはいまでも検証と批判の対象になっているのだけれども、実のところ国民の「民主党アレルギー」の根幹はこれらの鳩山由紀夫政権から菅直人さんに至るまでの失政の歴史への幻滅が大きく、10年の時を経ていまなお引きずっていることは否定ができません。

 なので、本来ならばこれらの風評と立憲民主党をデカップリングするためにも、当時権勢を誇った小沢一郎さん、鳩山由紀夫さんとのトロイカ体制の一角であった菅直人さんをうまく外す必要があるのでしょう。中道の票を得ることを考えれば。しかしながら、前述のように菅直人さんというのはいまだ左派系活動家の中では立派な思想的中核であるから、そこが支持母体の欠かせない一部である立憲民主党からすれば引退勧告をしたり、矛を収めるよう総理にものを申すことなどできようはずもない。

 他方、ヒトラーと名指しされた橋下徹さんや日本維新の会も、レトリックとしてのヒトラー批判にとどまらず、もはや完全に新自由主義的経済政策を前面に押し出すいまの維新の立ち位置からすれば左派からはポピュリズム批判を受けてもなんらおかしくない状況になってしまっているのも事実です。もちろん、ポピュリズムは立憲だろうが自民だろうが政策主張を国民に行うに当たっては起きて必然の批判ではあるのでしょうが、その一方で「新しい資本主義」とかいう大変な国家社会主義的経済政策観を打ち出してしまった岸田文雄政権が岸田さん本人のカラーもあって光学迷彩服でも着ているのかと思うぐらい国民からは目立たないため、一連の論戦には岸田さんのきの字も出てこない状態なんですよね。

 さらに信じられないのはこの情勢になってなお、岸田政権の支持率が高いままどころかむしろ上昇の傾向であり、さらに野党支持率も維新が維持しているものの他も落ち着いてしまったのでどうにもなりません。本当にどうにもならないので、本当にこのまま参院選に突入してしまうんじゃないかと思うぐらいに無重量状態で慣性に乗ったまま物事が進んでいっているような印象です。

 これはもうさすがに何を論評してもどうしようもないところ、ヒトラー問題で菅直人さんが燃えてくれたので、改めて客観的に政治状況を見る機会がやってきたという感じなんじゃなかろうかと思います。

 そして、立憲としても維新としても、お互いに非難の応酬をしながら、メディアに取り上げられて「美味しい」と思ってるはずなんですよね、どちらかの立場によっている人はそもそもが自前の客であり支持者ですから、踏み固められる絶好の機会です。折れる必要がないし、言いっぱなしでいい。熱源が冷えて話題にならなくなるまで騒いで、支持者には「俺は言ってやった」と大見得を切るだけでいいのですから、これは楽だ。

 それを策ではなくナチュラルに昔からそう思っている菅直人さんがネットでやってのけるんですから、役者が違うというか、さすがだなあという印象です。明らかに計算ずくではない。言われた橋下徹さんも期待通り拳を振り上げてわいわい言う、そして橋下徹さんが出ているテレビに立憲支持者が文句をつける、そういう空中戦こそが選挙前半年の状況ではふさわしいと思います。

 もちろん、そろそろ物価をどうにかしろとか、エネルギーだ円安だ株安ださまざま政策という面では問われるべき物事はあるんですけれども、なにぶん岸田さんがステルスなものでどうにもならんのでしょうね。はい。
 

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Vol.358 石原慎太郎さんを悼みつつ、自動車のサイバーセキュリティやYahoo! JAPANの欧州向けサービス撤退などを論じる回
2022年2月3日発行号 目次
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【0. 序文】(ある意味で)巨星・石原慎太郎さんを悼んで
【1. インシデント1】自動車が今後直面するであろうサイバーセキュリティという課題
【2. インシデント2】Yahoo! JAPANのサービス「GDPRを遵守できません」の(ちょっとした)衝撃
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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