やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

効かないコロナ特効薬・塩野義ゾコーバを巡る醜聞と闇


 面倒なことが起きていますが、製薬界隈では前回メルマガでも書きましたように仮名加工医療データの問題がすったもんだして、これをクリアしないと日本人の患者の方々にご協力を戴いた治験での創薬がむつかしく、ただでさえ製薬各社の資本集約が進まず世界的な製薬業界の流れに遅れているのにますます大変なことになるという危機感をもって取り組んでいるところです。

 そこへ、いま話題沸騰の効かないコロナ特効薬である塩野義ゾコーバの承認を巡り、一気に政治案件となって大変な騒ぎとなってきました。

 遠因は、菅政権末期において「対コロナウイルスの国産ワクチンの開発を急げ」という方針が打ち立てられ、どういうわけかアストラゼネカ社、富士フイルム社と並んで塩野義製薬もその持ち上げの対象となり、周辺費用も含めて三桁億近い創薬助成金を受け開発に邁進した経緯があります。富士フイルム社のファビピラビルはみんなご存じアビガンで、これはもうまったく効かないのが分かっておりましたし、アストラゼネカ社も国内ノックダウン生産ができるワクチン候補の「抑え」として起用していただけですから、界隈的には是が非でも塩野義には頑張ってもらい、どうにかして国産コロナ特効薬の開発という悲願を達成させたいという考えがあったのは分からんでもないのです。

新型コロナウイルス感染症治療薬の実用化のための支援事業(二次公募)の採択結果について

 もちろん、巷で言われるように甘利明さんがこの方面に深く介入し、さらに厚労省の承認においてケツを叩いたかのようなツイートまでして公言を憚らないため、上記選任にあたっても何らかの政治的関与があったんじゃないかとさえ疑われる事態となりまして。

 その後、第二相試験に無事失敗、緊急承認の段取りを踏む以前の問題として医薬品第二部会と薬事分科会の合同会議では「審議継続」としながらもつまりは「効果がはっきりと示されるまではペンディングという姿勢がはっきりしたことになります。

国内初コロナ飲み薬、「緊急承認」見送り 塩野義製薬、第7波で期待の一方慎重論多く継続審議に

 決算説明会において、塩野義は11月としていたゾコーバの最終治験を前倒しにすると発表していますが、そもそもの第二相の結果から見るに厳しい結果に終わることは容易に想定しうる状態ではあります。

塩野義「8~9月に最終治験速報」 コロナ飲み薬、審議時期焦点

 そこへきて、日本感染症学会理事長の四柳宏さんと日本化学療法学会理事長の松本哲哉さんが連名で、厚生労働大臣宛に「ゾコーバ承認しろや」と横やりを入れてきたのでさあ大変。つまりは、効果が確認できない薬でも早期承認しろという話であって、そればかりか、審議で参考人として呼ばれた感染症学会理事長名でこの提言を出した四柳さんは、塩野義と利益相反ありの立場で、要するにゾコーバ推進派であることに変わりはありません。

新型コロナウイルス感染症における喫緊の課題と解決策に関する提言

【資料No.5-1】四柳参考人提出資料 (2 ページ)

 これを突っぱねられないのだとしたら、正直我が国の医薬品承認プロセスに対しては信頼感が地に堕ちることになりますし、冒頭にも書きましたように仮名加工医療データの利活用で創薬をという以前の問題となりかねません。

 その横で、厚生労働省審議官の城克文さんがのんびり「ファクトベースで語れや」とインタビューで述べているため、一連の体たらくを見て椅子から半分落ちそうになりながらも厚生労働省の良心を発揮していただきたいと願う限りです。

厚労省・城審議官 有識者検討会で業界は「ファクトベースでロジカルな議論を」 国民目線での提案求む

 本来の目的であるコロナ対策を徹底して国民の生命と健康を守るという一丁目一番地だけでなく、世界的に蔓延するコロナウイルスに対抗するためにも戦略物資であるコロナワクチンや特効薬を国産で作るという、いわばコロナ安全保障のようになったわけですよ。

 ただし、テラ社やアンジェス社だけでなく、富士フイルム社も塩野義製薬もアカンとなると、菅義偉さん以降政権が目指した戦略物資国産化政策としての創薬は一敗地に塗れることになりますし、そればかりか、それを主導した政治と厚労行政の責任とされかねません。実際、失敗しているわけですから、これはほんとどう着地するんやというのは非常に気になるところですね。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.380 五輪収賄疑惑でKADOKAWA関与の報に思うことを語りつつ、コロナ特効薬・塩野義ゾコーバや経産相を巡る醜聞、さらには画像生成AIブームなどについて触れる回
2022年9月3日発行号 目次
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【0a. 序文その1】川上量生さん、KADOKAWA社長時代に高橋治之さんへの資金注入ファインプレー
【0b.序文その2】効かないコロナ特効薬・塩野義ゾコーバを巡る醜聞と闇
【1. インシデント1】西村康稔さんが経済産業大臣に着任して早々トリセツが流された問題
【2. インシデント2】にわかに活況の画像生成AIに関する雑感など
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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