※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2017年2月3日 Vol.114 <進化に善悪はない号>より
2016年のCESで発表だけはされていた、ウエアラブル翻訳デバイス「ili」がいよいよサービスインする。1月31日ベルサール六本木にて記者発表会をやるというので、出かけていった。
開発したのは株式会社ログバー。2013年創業のベンチャー企業である。発表会では代表取締役兼CEOの吉田卓郎氏が、自ら寸劇を交えながらiliの有用性をアピールした。
・寸劇を交えた楽しいプレゼンを披露した代表取締役兼CEOの吉田卓郎氏
モノとしては平たいスティック状のデバイスで、リコーTHETAぐらいのサイズ感である。手前におおきなボタンがあり、これを押しながらしゃべると、アニメ的な高い女性の声で他国語に翻訳され、スピーカーから再生される。
・ili本体。平たいスティック状で、ポケットにも入れやすい
同様の翻訳は、スマホアプリにも存在する。だが、クラウドで変換処理を行なうためにネット接続が必要だし、なにしろアプリを立ち上げる手間だったり、相手にそれでしゃべれというのは無理がある。
iliはスマホアプリに対する有用性として、ポケットから取り出して指一本で扱える手軽さ、さらにネット接続なしで動作する点をアピールする。
翻訳は、1方向だ。1つのデバイスで日本語 → 英語あるいは日本語 → 中国語に翻訳される。逆の翻訳を行なう場合は、逆方向へセットされたもう一つのiliが必要となる。
実際にフィールドテストした際には、双方向よりも単方向のほうが満足度が高かったそうだ。自分が言いたいことだけにフォーカスした結果、翻訳精度やスピードも十分なレベルになったという。
普通に考えれば、音声言語の翻訳には膨大なパターンが必要になるはずだ。誰もがクラウドでディープラーニング、というフレーズが思い浮かぶ。
一方iliではローカルで動かすために、会話のうち、旅行で必要なものだけに絞り込んだ。旅行者というのは、だいたいやることやいいたいことは限定される。ショッピング、食事、トラブル対処などがクリアできれば、実用性はある。
翻訳音声のボリュームさえも撤廃した。相手が聴き取れなかった場合は、もう一度ボタンを押すと再度発音される。相手の耳に近づけて再生するなどの工夫をすればカバーできるとの判断だ。
マイクは音声を拾うための正面のほか、背面にもある。背面はノイズキャンセリング用だというが、実際には正面にマイクの指向性を出すための仕掛けだろう。高価な超指向性マイクカプセルを使うより、プロセッサの演算によって指向性を出した方が、今は安く上がる。
iliのビジネスモデル
こういうデバイスなら今すぐ欲しいという人も多いだろう。あるいは値段次第では、と考える人もいるかもしれない。
現時点では、iliは個人向けの単体発売を行なっていない。最初はビジネスパートナーと組んで、使える状況を作っていくところから始めるという。
海外では、ハワイにある3つのリゾートホテルで導入する。ホテルマン側が持つというよりは、宿泊客へのレンタルを行なうという。客はホテルマンが何を言っているかよりも、自分のいいたいことを伝えたいはずだ。
国内においては、実証実験としてイオンモールと東京メトロが名乗りを上げている。すでに実験が開始されており、良好な結果が出ているという。
旅行者が使えるようにということでは、Wi-Fiルーターのレンタルビジネスを手がける株式会社ビジョンより、4月下旬から日本国内13箇所の空港でレンタルが開始される。料金は不明だが、通信費がかからないので、ルーターよりは低価格に借りられるのではないか。これは勝手な予想だ。
なお事業者向けには、今年6月からレンタル事業も開始する。1台月額3,980円だが、変換ログ解析ツールや言語切り換えシステムなどが付属する。ログ解析によって、自社のサービスの課題、例えばトイレの場所を頻繁に尋ねているようであれば、場所や表示がわかりにくいといった問題点の発見にも繋がるはずだという。
プレゼンのCEOの吉田氏は、2〜3年後には多くの人がiliを使ってもっと海外旅行を楽しんで欲しいと結んだ。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
2017年2月3日 Vol.114 <進化に善悪はない号> 目次
01 論壇【西田】
「一太郎2017」を使いながら、執筆環境を考える
02 余談【小寺】
iliは言語弱者を救うか
03 対談【西田】
BuzzFeed Japan・古田大輔編集長に聞く「信頼されるウェブメディアの作り方」(2)
04 過去記事【西田】
「自らかみ砕いて動く」トップがプレゼンの価値を高める
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと
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