高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

竹富島で考える沖縄の内と外

高城未来研究所【Future Report】Vol.473(2020年7月10日発行)より

今週は、竹富島にいます。

八重山列島の中心地である石垣島の南約6kmに位置し、石垣港からは高速船で約15分の距離にある竹富島は、近年、著しい観光バブルの波が押し寄せた沖縄のなかでも、オーバーツーリズムの典型的な場所になってしまいました。

竹富島は、1時間もあれば島内すべて自転車で回れるほどの小さな島で、総面積は約5.4平方キロメートルしかありません。
90年代には、年間入島人口10万人にも満たず、島の関係者とわずかな観光客だけしかいないノンビリした島でしたが、現在は、年間入島人口50万人を突破するまで観光客が増えています。

いまも人より牛や水牛、山羊などの動物のほうが多い島で、人口は350人程度。
この350人で50万人を相手しなければならないのです。

だからと言って、竹富島の人たちは、それほど豊かになっていません。
多くの観光客は、石垣島の船会社で乗船券やレンタサイクル、水牛車乗車券を併せたチケットを買ってくるため、島の事業所には少ない利益しか入らないシステムになっており、小さな島ゆえ、観光客の滞在時間は1〜2時間と短く、お店には入らず自動販売機で飲み物を購入。
それゆえ、島には缶とペットボトルのゴミが溢れるばかりになってしまいました。

もともと琉球王国時代の竹富島は、八重山諸島の政治の発祥地で、行政府は石垣島へと移転しましたが、「八重山における行政府の始まりの地」として栄えていた場所です。

その後、島外資本による土地の買い占めが増加し、一時は島の3分の1が島外資本に売り渡された状況が続いていました。
長年の交渉により売られた土地を島の有志が買い戻し、1986年に島民らが自主的に「竹富島憲章」を制定。「売らない」「汚さない」「乱さない」「壊さない」「生かす」を基本理念にした憲章も評価され、1987年には国の「まちなみ保存地区」に選定されるまでになりました。

しかし、時代の趨勢には敵いません。
島外資本による買収とリゾート計画が次々とはじまり、一部はすでに開業し、未だ解決の糸口は見つかっていない問題の場所も多々あります。

この背景には、内と外で使い分ける沖縄特有の「二枚舌コミュニケーション」があると感じています。本島でも「米軍基地反対!」を声高に叫びあげますが、その実、軍用地や中央政府の補助金、そして補正予算の恩恵に預かっている人は、相当数います。

竹富島も同じような島内と島外の「二枚舌コミュニケーション」があり、入島制限を声高に叫びあげる一方、島民の9割近くは観光収入に依存しており、島内で販売されている「星の砂」は、実は粒が大きい輸入品で、粗悪な品物やサービスで荒稼ぎしている現状もあるのです。

昨年、「入島料」を徴収すると発表し、これを船舶料金に上乗せする予定でしたが、曖昧な「二枚舌コミュニケーション」により島外との調整が長期化し、現在は「任意」となっていますが、ほとんどの観光客は支払わないというより、「入島料」の存在そのものを知りません。

これは、健康面にも如実に現れています。
現在、「2040年に平均寿命日本一」の目標を掲げ、島外的に健康長寿ブランドの再構築を目指す沖縄県ですが、2005年まで長年全国1位を維持していた沖縄女性平均寿命のランキングは、現在7位まで転落。
男性も36位まで落ちており、65歳未満の働き盛り世代の死亡率が男女ともに全国ワーストとなっています。

島外には、「紅イモ」「島野菜」「もずくなど海藻」「マグロにカツオにグルクンなど魚」を作る「おばあ」のイメージを重ね、さらに「あぐー豚」、そして「石垣牛」などを高価格になってしまった食材を喧伝する一方、実際の食事と言えば、「ハンバーガー」「ステーキ」「フライドチキン」「フライドポテト」に加え「コーラ」が、県民食の実態なのです。

石垣島の離島ターミナルから乗った船のなかで、ひさしぶりに地上波のテレビ番組(民放キー局系列のローカル番組)を見ましたが、食べ物と新型コロナウイルス感染拡大、そして大雨による災害のニュースを交互にやっていて、これを見ていて、よく頭がおかしくならないなと、正直感じました。

沖縄が年々短命県に陥っているのは、テレビの影響も多分にあるだろうな、と感じる今週です。
食事は、社会を変えますね。
なにしろ、人が変わるわけですから。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.473 2020年7月10日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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