石田衣良ブックトーク『小説家と過ごす日曜日』より

世界はバカになっているか

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この世界で起きるすべての出来事は、自分と無関係じゃない。

石田衣良と、ご存知『池袋ウエストゲートパーク』の主人公マコトが、普段から考えていること、感じていることを、誠実に自己検閲なしで語ります。テーマは森羅万象。とりあげて欲しいことがあったら、ぜひお知らせください。

http://ishidaira.com/qa/

 

世界はバカになっている?(石田衣良)

先日若い編集者とカフェで打ちあわせをしていた。さて、つぎの本はどうしましょうか。いつもの作家と編集者の雑談である。そのとき、彼はいきなりこういったのだ。

「世界ってだんだんバカになってますよね、石田さん」

いいにくいことをずばりというなあ。若いって素晴らしい。でも、そのときずっと頭のなかでもやもやしていたことを、正確にいい当てられた奇妙な爽快感もあったのである。ユーレカ! みなさんもそんなふうに感じませんか。

世界はバカになっている。

そのもっとも身近な例がネットにある。ユーチューバーはいつまでたっても、コーラにメントスをいれたり、輪ゴムでスイカを爆発させたり、奇声をあげながらゲームを攻略したりしている。数を稼ぐためなら、どんなに低劣な手段でもかまわない。目立ちさえすればいい。小中学生の子どもをとりこめば勝ちだ。

あふれる芸能人ブログも、ほぼ日常生活の無意味無反省な垂れ流しばかり。誰もあなたの育児や手づくり弁当やペットの記録になんて興味ないよ。服やバッグもいまだにステマだらけである。センスがよくて、最新の流行(どうせアメリカ発だけど)に詳しくて、明るくポップな生活をちらつかせる。

まともな常識のもち主なら、まず目をそむけるこうした動画やブログが、100万単位の人々を今日も引きつけている。うーむ、やっぱり世界はバカなのか。

事情は映画の世界もご同様で、ハリウッドではアメコミヒーロー映画の量産体制がもう10年は続いている。ああしたCGてんこ盛りの雑なアクションを見せられて、「これが映画だ」といわれても困るんだよなあ。

どれもパターンは決まっている。ボリュームゾーンの大衆はこの程度と見切ってつくられたコンテンツが、そのまま予想通りにヒットして、質の低いコンテンツがさらに大量生産されていくのだ。「悪貨が良貨を駆逐する」の拡大再生産だ。

この状況はもうどうにも動かしようがないと、ぼくは半分あきらめている。1989年に始まったグローバル化によって、世界は上下にちぎれ格差は拡大している。格差の下側半分の人たちは、もう希望を失ったのだ。学び、知識を蓄え、自らの頭で考えることで、階級差を超えていく。20世紀には誰にでも手が届いた社会をのぼる梯子が、もう壊れてしまった。

けれど、この状況は逆説的なチャンスでもある。世界がバカになっていくのなら、わずかな知恵と知識で頭ひとつ分抜けだすのは、そう困難なことではない。何千万人というマスのなかでなら、ひとつのアイディアで百万人くらい追い抜けるかもしれない。

ぼくのメルマガは、ユーチューバーや芸能人ブログやアメコミ映画のファンに向けたものではない。この時代を真剣に生きて、すこしでも「バカの山」を登ろうとしている少数派のためのものだ。

確かに世界は日々、バカになっているのかもしれない。でも、そのなかで自分まで希望を捨てて、バカの振りをすることはない。今日もなにか新しい知恵をひとつ探して、みんなで身につけよう。

 

世界は昔からバカだった!(マコト)

おれは賢いやつのことは、よくわからない。
だけど、この問題に関しては、話す前からはっきりしてる。
世界も、そこにいるやつらもずっとバカだった。
それもはるか昔から、底なしのな。

これ以上いうことなんてあるのかな。おれたちはどうせ、みんなバカなのだ。そいつは誰の目にはっきりしてて、だからどうしたってくらいのもんだよな。おれたちは腹をすかせた雛鳥で、口を開けて餌を与えられるのを待っているだけだ。

餌の中身なんて問わない。放りこまれたものをただがつがつとくらう。ユーチューバーの動画や芸能人のブログやアメコミ映画だけじゃない。毎日のテレビや週刊誌や新聞だって、おれたちに自分で考えないようにさせる流動食みたいなもんだ。

自分がバカだと気づいて悔しいのなら、足元から足りない頭でひとつずつ
考えを積みあげていくしかない。

最後に頼りになるのは自分で考え、気づき、見にしみつけたものだけだ。
バカの世界で、ほんの一歩だけ賢いバカになる。
そいつは決して悪くない目標だと、おれは思うな。

 

 

 

石田衣良ブックトーク『小説家と過ごす日曜日』

2015年08月28日 Vol.004 目次

00 PICK UP「独立する夫を手伝うために会社を辞めてもいいですか?」
01 ショートショート「107回目の再トライ」
02 イラとマコトのダブルA面エッセイ〈4〉
03 “しくじり美女”たちのためになる夜話
04 IRA'S ワイドショーたっぷりコメンテーター
05 恋と仕事と社会のQ&A
06 IRA'S ブックレビュー
07 編集後記

kinei大好きな本の世界を広げる新しいフィールドはないか?
この数年間ずっと考え、探し続けてきました。
今、ここにようやく新しい「なにか」が見つかりました。
本と創作の話、時代や社会の問題、恋や性の謎、プライベートの親密な相談……
ぼくがおもしろいと感じるすべてを投げこめるネットの個人誌です。
小説ありエッセイありトークありおまけに動画も配信する
石田衣良ブックトーク『小説家と過ごす日曜日』が、いよいよ始まります。
週末のリラックスタイムをひとりの小説家と過ごしてみませんか?
メールお待ちしています。
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石田衣良
1960年、東京都生まれ。 ‘84年成蹊大学卒業後、広告制作会社勤務を経て、フリーのコピーライターとして活躍。 ‘97年「池袋ウエストゲートパーク」で、第36回オール読物推理小説新人賞を受賞し作家デビュー。 ‘03年「4TEENフォーティーン」で第129回直木賞受賞。 ‘06年「眠れぬ真珠」で第13回島清恋愛文学賞受賞。 ‘13年「北斗 ある殺人者の回心」で第8回中央公論文芸賞受賞。 「アキハバラ@DEEP」「美丘」など著書多数。 最新刊「オネスティ」(集英社) 公式サイト http://ishidaira.com/

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