高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

影響力が増すデジタルノマド経済圏

高城未来研究所【Future Report】Vol.673(5月10日)より

今週も、東京にいます。

春の陽気に誘われて、5月に入ってからも世界中から友人たちが続々と日本を訪れています。
彼らにとって、ゴールデンウィークという日本独特の長期休暇の概念は馴染みがなく、友人たちは日本各地の観光地を巡りながら「なぜ日本はどこもこんなに人で溢れているんだ!」と驚きを隠せません。

実は、ゴールデンウィークという言葉はもともとマーケティング用語として生まれたもので、戦後、国民の祝日に関する法律(祝日法)の施行により、映画会社が「ゴールデンウィーク」というキャンペーンを展開しました。
これが正月映画やお盆映画を上回る興行成績を記録したため、宣伝用語としての活用が本格的にはじまります。
その後、日本旅行協会が5月の大型連休を「ゴールデンウィーク」と銘打ったキャンペーンを大々的に行い、この名称が広く定着していきました。
このような謂れから、NHKでは宣伝用語を避ける方針のため、放送時には原則として「(春の)大型連休」という表現で統一しています。

そんな中、海外の友人たちから都心部でどこかガイドブックに載っていないかつソーシャルにもあまり上がってない日本らしいところへ連れてってほしいと懇願されまして、6年ぶりに本社大神輿が渡御した烏森神社例大祭にお連れしました。これが、大好評!

その夜、御礼もかねて招かれた都内有名レストランに行くと、両脇のテーブルはいわゆる「パパ活」だと思われる人たちで、友人たちから説明を求められました。
そこで僕は、「君たちと同じ一種のノマド」だと話しました。
なぜなら「自分の技能を活かして場所に縛られずに仕事をする人々」だからです。

その夜目撃したのは、たぶん以前なら店や組織に属していた人たちなのでしょうが、いまではフリーランサーとして、中には僕の友人たち同様海外まで出張って「世界中を旅しながら働く」というライフスタイルを送っている人もいるかもしれません。

現在、世界にはデジタルノマドが5000万人近くおり、さらに今後3~4年で倍増すると予測されています。
A Brother Abroad社が2021年に実施した調査によると、デジタルノマドの経済効果は全世界で約116兆円に達しており、いまや「デジタルノマド経済圏」と言っても過言ではありません。

この突如として生まれた「デジタルノマド経済圏」を狙って、彼らを自国に誘致する動きが世界で急増しています。
デジタルノマドビザ発給国は、2021年2月時点では21カ国でしたが、わずか二年で58カ国と3倍近くに増え、さらに手厚くする動きが顕著です。
日本も他ではありません。
スペインでは、若い世代のデジタルノマド誘致に1世帯あたり3,000ユーロを支援する取り組みや、出産1人につき、さらに3,000ユーロを支給。
スイスでは田舎移住者に約300万円が支給されるなど、高齢化、過疎化に悩む地域課題解決への一助として、デジタルノマド誘致に力を入れています。
もしかしたら、日本の過疎化した地域の救世主になる可能性もあります。
年代別では30歳代のデジタルネイティブが半数を占め、20歳代と40歳代がそれぞれ約2割で、男女比はほぼ半数。
全体の31.5%がフルタイムで企業に雇用されていますが、およそ7割はフリーランスです。

僕の友人たちを見ていると、みなさんリモートワークで朝4時間ほど集中して働き(午前5時から9時ごろまで)、その後1日を楽しく過ごすようなライフスタイルを送っています。

職種は、ライター、プログラマー、デザイナー、DJ、ミュージシャン、ビデオエディター、コンサルタント、専門性の高い弁護士、アナリスト、栄養トレーナーなどですが、二つ以上の職種を掛け合わせている人も少なくありません。
先日、ドイツからきた友人は、金融業界で働きながらミュージシャンとしてもそれなりに活躍しています。

また、彼らは口々に「Decentralized」と話します。
Decentralizedは、意思決定や制御、権限などが中央の単一の主体に集中せず、ネットワーク上の多くの参加者やノードに分散している状態や構造を表す言葉で、僕がよく言う「分散」です。

現在、社会が不均衡なのは既得権による中央集権化の制度疲労に大きな問題があります。
インターネットが単一の中央サーバーに依存するのではなく、多数のノードが対等に接続され、データや処理が分散されているネットワーク構造で構築されているように、社会システムも単一の中央管理者が存在するのではなく、多数の参加者が協調して動作するシステムに移りかわらねばなりません。

これらを鑑みると、二つ以上の場所に住み二つ以上の仕事をするのは、これからの時代の必然になり、そうなるとゴールデンウィークのような皆で同じ時に休むこもとなくなり、行楽地や都心部が大混雑することもなくなります。

新時代のノマドの台頭は、固定された場所で決められた時間に働くという常識が覆され、より多くの人たちが個人の自由と自己実現が重視される時代へと移行しつつあることを予測します。

しかも、この変化は単なるライフスタイルの多様化にとどまりません。
およそ50年前にヒッピーが唱えた環境問題などが、現在世界的なトピックとなったように、Decentralizedの概念は、政治や経済、文化など、社会のあらゆる意思決定プロセスの分散化や多様な価値観の共存など、十年後には世界中で当たり前になっているかもしれません。

果たしてヒッピー以来、最大の対抗文化であるデジタルノマドは社会や経済のあり方そのものを問い直す契機となるのでしょうか?

それにしても不思議な気候です。
3月のような日と7月のような日が同じ週に繰り返されています。
何事も乗り換え時は、混乱するものです。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.673 5月10日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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