高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

パーソナルかつリモート化していく医療

高城未来研究所【Future Report】Vol.754(11月28日)より

今週は、バルセロナにいます。

先週滞在していたデュッセルドルフと並び、バルセロナはヨーロッパの中でも未来医療に向けた熱気が高まっている都市のひとつです。ポブレノウ地区のカフェにいるだけで、ヘルステック、医療データ、AI診断、パーソナルケア、ウェアラブル、生体センサーといったキーワードが専門家のあいだだけでなく、起業家や学生、クリエイターの会話から時折聞こえてきます。
先週はデュッセルドルフで開催された世界最大級の医療機器展示会「MEDICA」に出向きましたが、バルセロナは22@地区を中心にヘルステック系スタートアップが立ち並び、もはや街の一部が最先端のヘルスケアイノベーションを凝縮した「巨大な実験室」のように見えるほどです。

MEDICAでは、ダニエル・クラフトの基調講演が行われました。スタンフォードとハーバードで育ち、医師であり科学者であり起業家であり、バルセロナのヘルスケアスタートアップにも関わるクラフトは、シンギュラリティ大学の医療部門を創設した異能の人物として知られ、TEDなどでも、この10年以上「医療の未来は必ずこう変わる」というビジョンを語り続け、世界中の医療関係者に強い影響を与えてきました。

クラフトは「医療は病院の外へ出ていく」と繰り返し述べており、「以前は、音楽を聴くためにCDショップに行っていたのと同じで、今は病院に行かないと医療が受けられない。しかし、これからの医療は、オンラインを通じて身体から得られる連続的なデータが中心となり、診断はAIが担って、医師は意思決定の最終レイヤーを担当するようになる」と強く話します。

実際、かつて重厚長大で病院に据え付けるものであった医療機器は、小型化・低侵襲化・ウェアラブル化が進み、これによって、連続的身体検査へと進化しています。つまり、年に一度の健康診断のように「静止画的な計測」ではなく、身体から生成され続ける「動画的な連続データ」をAIが解析し、病気になる前にアラートを出す世界へ抜本的に変わるのです。

すでに家庭に置けるAI心電図デバイスは一般化し、スマホサイズの超音波診断装置は救急医療という枠を超えて家庭用にも普及の兆しがあります。
さらに、音声から疲労やメンタル状況を解析する技術、オンラインで受けられる遺伝子解析からの代謝スコアサービス、在宅で行える血液バイオマーカー測定など、かつて病院でしかできなかった検査の多くが、現在、急速に再定義されています。

特に劇的に変わると予測されるメンタルヘルス領域は、変革の中心です。声、睡眠、HRV(心拍変動)、表情の変化、スマホの打鍵速度、文章のリズム、歩行スピード、SNSの利用パターン。これらの多くが常時接続され、遺伝子・腸内環境・血液データと合わせて、メンタルのバイオマーカーとして季節や食事によって変わってしまうクライアントの健康管理を徹底的にサポートします。
今後は、「気分」や「不安」や「疲労」といった主観的なものが、客観的なデータとして扱われる時代になるのです。

手首のデバイスが、自分や大切な人の心臓を常時モニタリングし、スマホのマイクが声の揺らぎからメンタルの変化を感知し、AIがその日の食事や栄養・休息・集中の最適解を提示する。身体の声をAIが先に翻訳してくれるような世界は、もはやSFではありません。

そしてこの変化は、医療だけの話ではなく、生活、産業、政策、保険、働き方、街づくり、教育まで、静止情報が動的情報へと変わりつつあります。身体がテクノロジーと融合し、日常生活そのものが劇的に好転する未来。こうした潮流の根底に流れる医療は確実にパーソナルかつリモート化し、生活の中へと染み出していくのです。

一方、バルセロナとデュッセルドルフの気温差は10度以上あり、どれだけヘルスケアデバイスがパーソナル化しても、気候の変化に抗うことは正直難しいと感じています。最新のAI診断がどれだけ進化しようと、身体が感じる寒暖差は、当面、最適化してくれそうにありません。そのうち次世代のヘルスケアサービスが、その人の遺伝子やメンタルに合った移住先を進めるようになるかもしれません。

地中海の日差しに包まれながら日中を歩くと、上着はまだ早いけど、なにかを羽織らないと肌寒く感じます。
でも、カフェの屋外テラス席には、まだまだ半袖の人たちが大勢います!
このような光景も、ビタミンDの補給のために、スマホやスマートウォッチが示唆するようになるんでしょうね。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.754 11月28日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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