鏡リュウジ
@Kagami_Ryuji

鏡リュウジのメルマガ『プラネタリー夜話』より

統計学は万能ではない–ユングが抱えた<臨床医>としての葛藤

【ご案内】

鏡リュウジさん新刊『秘密のルノルマン・オラクル』、2014年8月10日発売決定!

510VALZzYSL._SL500_AA300_日 本初。36枚のルノルマンカードと本格的な解説書のセットが登場!! 欧米で大ブーム! ルノルマンカードとは? ナポレオン妃お抱え占い師マドモアゼル・ルノルマンに由来する伝説のカード占い。 近年、タロットよりすごいと欧米を中心に大評判のルノルマンカードを、西洋占星術・神秘学研究の第一人者である鏡リュウジ氏が紹介。タロットでもトランプ でも、天使カードでもない、新たに再発見されたオラクルカードとして世界的ブーム!

 

人類の普遍性と「自分」

 

現代のさまざまな学問や思考の方法は、今の社会がどのようなしくみになっていて、どのように動いているのか、ということについて大きな知見を与えてくれます。

ですが、それが取りこぼしてしまいがちなのは、その社会の中で生きて、悩んでいるのは、ほかの誰でもない、誰かとは交換できない自分であるということ。自分ではどうすることもできないような社会の状況や時代の中で……それを占いの見地から運命といってもいいでしょう……あがきながら生きている自分だ、という視点ではないでしょうか。

ユングにはその視点があります。

ユングの思想のなかには時代を超えた、人類の普遍性を射程に入れようというスケールの大きな視点がある一方で、その普遍性を前にした、個々の人間のきしみや葛藤と向き合っていこうという姿勢がある、ということなのです。

そこには、ユング自身が「医師」であり、臨床家であったということが大きく影響しています。

 

一人一人の患者に向き合うということ

 

医学と、医療の実践というのは実は葛藤をはらんでいます。それは学と術の葛藤ともいえるでしょう。現代の医師はもちろん、近代的科学の申し子であり、近代的で合理的な医学を身に着けています。ユングは自分が科学者であるということを最後まで強調していましたが、医学は実証的な学問なのです。

しかし、同時に医師は臨床家です。一人一人の患者に向き合うのです。ここに大きな問題が生じます。

医学では、たとえば、がんの原因や発生率を説明し、数値化していくことが可能です。多くの実験やデータを積み上げていき、推論を重ねていくことはできます。結果、このような遺伝的傾向を持つ人物が、このような条件で生活したときに、がんが発生する可能性は○○%である、この治療をしたときに治癒する可能性は○○%の確率であろう、ということはかなり自信をもって言うこともできます。

しかし、個々の患者にとっては、そうした「確率」では済まされない切実な問題があるのです。

その本人にとっては、治るかそうではないか、ということだけ。もっといえば、患者が知りたいのは「どのように」(How)がんになったか、ということではなく、なぜ、同じような生活をしているアイツではなく、この私が、そして、このタイミングでがんになってしまったのか、ということ(Why)ではないでしょうか。

再現性のない、一回だけの人生にたいして、医師は向き合うことになります。再現性をもとにした実証を基礎に置く科学によって武装しつつ、相対するのは一回きりの実存である人間なのです。

ユングはこの矛盾した二つのことを要求される、医師としての仕事の難しさを晩年のエッセイ『現在と未来』のなかではっきりと書いています。

経験的科学というものは、統計をもとに築かれますが、「経験に基づく理論はどうしても統計的であって」「理想的な平均値」を示すものになるとユングは強調します。けれど、それは個々の現実とは異なるのです。

1 2
鏡リュウジ
1968年3月2日生まれ。占星術研究家・翻訳家。国際基督教大学卒業、同大学院修士課程修了(比較文化)。占星術・占いに対する心理学的アプローチを日本に紹介したことで、幅広い層から圧倒的な支持を受け、従来の『占い』のイメージを一新する。英国占星術協会、英国職業占星術協会会員。日本トランスパーソナル学会理事。平安女学院大学客員教授。

その他の記事

これから「研究者」がマイノリティになっていく?(家入一真)
Adobe Max Japan 2018で「新アプリ」について聞いてみた(西田宗千佳)
人間にとって自然な感情としての「差別」(甲野善紀)
福永活也さんの「誹謗中傷示談金ビジネス」とプロバイダ責任制限法改正の絶妙(やまもといちろう)
小商いと贈与(平川克美)
週刊金融日記 第289号<ビットコイン・ゴールド 金の雨が天から降り注ぐ、自民圧勝で日経平均未踏の15連騰か他>(藤沢数希)
そろそろ真面目に「クレジットカードのコンテンツ表現規制」に立ち向わないとヤバい(やまもといちろう)
準備なしに手が付けられる、ScanSnapの新作、「iX1500」(小寺信良)
資本家・事業にとってだけ有利なデジタル革命、シェアリングエコノミー問題(やまもといちろう)
四季折々に最先端の施術やサプリメントを自分で選ぶ時代(高城剛)
週刊金融日記 第316号【Twitterオフパコ論の再考察とTOKIO山口メンバーはおっさんになったらモテなくなったのか他】(藤沢数希)
「残らない文化」の大切さ(西田宗千佳)
コーヒー立国エチオピアで知るコーヒーの事実(高城剛)
フェイクニュースか業界の病理か、ネットニュースの収益構造に変化(やまもといちろう)
コロナが起こす先進国と発展途上国の逆転(高城剛)
鏡リュウジのメールマガジン
「プラネタリー夜話」

[料金(税込)] 550円(税込)/ 月
[発行周期] 月2回発行(第2,第4月曜日配信予定)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4861139791/ref=as_li_qf_sp_asin_il_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4861139791&linkCode=as2&tag=hiyokomusic-22 http://www.amazon.co.jp/gp/product/4062136112/ref=as_li_qf_sp_asin_il_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4062136112&linkCode=as2&tag=hiyokomusic-22 http://www.amazon.co.jp/gp/product/4861139821/ref=as_li_qf_sp_asin_il_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4861139821&linkCode=as2&tag=hiyokomusic-22 http://www.amazon.co.jp/gp/product/4861139864/ref=as_li_qf_sp_asin_il_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4861139864&linkCode=as2&tag=hiyokomusic-22 http://www.amazon.co.jp/gp/product/4861139902/ref=as_li_qf_sp_asin_il_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4861139902&linkCode=as2&tag=hiyokomusic-22

ページのトップへ