※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2015年7月17日 Vol.043 <初夏の追悼号>より
今週の14日、Wi-Fi Allianceの記者発表会が行なわれた。だいたい年に1回定期的に行なわれる発表会なのだが、今年はWi-Fi Awareという新技術が発表された。以下のサイトに大まかな利用イメージが公開されているが、Wi-Fi Direct接続によるソリューションを拡張するための技術だ。
・Wi-Fi Aware
http://www.wi-fi.org/ja/discover-wi-fi/wi-fi-aware
・Wi-Fi Aware™: Discover the world nearby (Japanese subtitles)
具体的には、どこかのアクセスポイント経由ではなく、近くにいる人と繋がり、一時的なネットワークを形成できる。たとえば電車内で同じゲームを立ち上げている人と対戦できたり、同じイベントにいる人と別アングルの写真を交換し合ったりといったことが実現できる。
実際の動作はWi-Fi Directが実現するわけだが、そこに至るまでの接続性を確保するのが、Wi-Fi Awareだ。これまでセキュアなWi-Fi接続では、AOSSやWPSといった、ボタン押しによって近くにいるということを証明する手段、あるいはNFCでタッチすることで、すぐそこにいるということを証明しつつ、セキュアな接続を行なっていた。
一方Wi-Fi Awareは、こういった別行為を行なうことなく、アプリを利用している最中に、近くで繋がれそうな人、繋がれそうなアクセスポイントをノーティフィケーションする。
Wi-Fi Awareは微小電力で常時起動しているプログラムで、ユニークIDなどの情報を多くの端末と通信する。言うなれば、ニンテンドー3DSのすれちがい通信みたいなのを、スマホ上でずっとやってるわけだ。ちゃんと大容量のデータを渡したいとなれば、そういうアプリ、たとえばゲームやカメラといったアプリに接続情報を引き継ぐ。
Wi-Fi Awareには特殊な通信モジュールは必要なく、2年ぐらい前のチップセットなら十分に動くという。ただしOSのサポートは必要なので、どこかの段階でiOSやAndroidが対応すると思われる。
すれちがい通信を持ち出すまでもなく、現在も似たような技術は存在する。たとえばiPhoneならばAir Dropという機能を使って、近くにいる人に写真をシェアできる。iPhoneからMacに対しても同様だ。
ただAir Dropは、Apple製品間でしか動作しない。一方Wi-Fi Awareは、OSとアプリが対応すれば、どんな端末間でも使える技術だ。
一方で、そんなに簡単に他人と繋がって大丈夫かという心配もある。プライバシー、セキュリティ上で懸念される議論のポイントを質問したが、Wi-Fi Awareがサポートするのはあくまでも最初の接続だけで、それ以降の通信内容はアプリが面倒を見る。たとえばSNS系のアプリであれば、公開される情報の範囲を決められるし、アプリを超えてスマホ内のデータが取得されることはない、という。
いや、もちろん健全なアプリではそうだろうが、アプリ自体があまりよろしくない目的で開発される可能性はある。たとえばSNSに偽装した出会い系的なアプリがこの技術をサポートすれば、近くに接近した際に、相手に素性を知られる可能性はある。Wi-Fiの電波が届く範囲なんて知れているので、ストーキングに使われたりするというリスクは無くせないだろう。
見通しとしては、年内から来年にかけて、OSでの実装が見込まれているようだ。クラウドを経由しない新しいコミュニケーションの形が生まれるかも知れないが、今の利用イメージは、あまりにも性善説過ぎる。子供と大人の出会いという観点からは、少し注意して見ておかなければならない技術のように感じられる。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
2015年7月17日 Vol.043 <初夏の追悼号>目次
01 論壇(西田)
追悼:任天堂・岩田聡社長
02 余談(小寺)
年内に来る? Wi-Fi Awareとは
03 対談(小寺)
救急という視点から見たドローンの未来(3)
04 過去記事アーカイブズ(西田)
ニンテンドー3DSの秘密
05 ニュースクリップ(小寺・西田)
06 今週のおたより(小寺・西田)
07 今週のおしごと(小寺・西田)
コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。
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