※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2016年07月01日 Vol.088 <便利の代償号>より
先日から、Amazonが日本でも「Kindle Unlimited」をスタートする、との噂が出ている。筆者も複数の出版関係者から、「Amazonからスタートに向けた打診があった」という情報を得ており、このまま進めば8月にはスタートするのではないか、と見られている。
Kindle Unlimitedは、いわゆる「サブスクリプション」型の電子書籍サービスだ。アメリカを含め11ヶ国で展開中だが、月額1000円程度を支払うと、Amazonが用意しているカタログの中から好きな本が好きなだけ読める、というものである。音楽や映像のサブスクリプションは「会員制図書館への入場券」に例えられることが多いが、Kindle Unlimitedの場合にはまさに「会員制電子書籍図書館への入場券」である。
書籍不況の中、読み放題になってさらに書店や出版社のビジネスが打撃を受けるのでは……という見方もあるが、筆者はそこまで単純だとは思えない。
そもそも、出版社は「読み放題」にひどく反発していた。Kinldeが日本に参入する前には、「本を一山いくらにする存在は許せない」と怒りに似た感情を露わにする人もいたほどだ。しかし、いまやそんなことも言ってはいられない。
「ついに読み放題!」と注目されているが、スマートフォン向けのコミックや雑誌のサービスを中心に、「月額課金制の読み放題」「広告ベースの読み放題」というビジネスは少なくない。特にdマガジンをはじめとした雑誌の読み放題は、それなりに無視できない収益を雑誌の編集部に与えており、「小さいがそれなしのビジネスはあり得ない」レベルになっている。出版物販売におけるAmazonの影響力もあり、完全に無視、というわけにはいかない。
だが、日本でのKindle Unlimitedは「数万冊」レベルからスタートすると言われており、それでどこまで支持を得られるか、という疑問が付いて回る。
Kinlde Unlimitedには新刊はあまり入らず、過去のベストセラーやコミックの第一巻が収録される場合が多い、と見られている。
そもそも、いまKindleで書籍を買っているのは「本が好きな人」だ。そういう人々が、一巻だけのコミックや過去のベストセラーにどれだけ興味を持つだろう? 新刊読み放題ならともかく、本にこだわりを持つ人は、本代をケチってまで「中身をケチる」つもりにはなれないものだ。
暇つぶしなら、過去のベストセラーもお試し感覚のコミックもアリだろう。では、それを「有料」で契約する人はどのくらいいるだろう? 無料のコンテンツがあふれるご時世、「なんでもいい」ものにはお金を払ってもらいづらい。
いくつかの出版社は「雑誌」の提供を検討しているという。これは、成功しているdマガジンのモデルを踏襲するものといえる。数多くの雑誌が入るのであれば、dマガジンのライバルになる可能性はある。が、Kindle Unlimitedというサービスで、その辺を想起できるかどうか、ちょっと疑問である。
面白くなりそうなのは、個人出版をしている人々がKindle Unlimitedに作品を多数提供した結果、「まだ見ぬ作品を発掘する場」になれば、ということだ。ただ、見知らぬ人々の中身がわからない作品を目的にお金を払う人はほとんどいないだろうから、Kindle Unlimitedがそこで顧客を集めることはなく、あくまで「結果的に」というパターンかと思う。
そもそも、読み放題でKindleを選ばねばならない理由は薄い。個人出版なら「小説家になろう」があるし、コミックならPixivもComicoもある。最大の魅力は、ひょっとすると「電子書籍専用端末であるKindleで読める」ことかも知れない。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
2016年07月01日 Vol.088 <便利の代償号> 目次
01 論壇【小寺】
「デジタル教科書」は今どうなっているのか
02 余談【西田】
「Kindle Unlimited」日本上陸でなにが起きるのか
03 対談【小寺】
フリーライターの健康保険サバイバル(3)
04 過去記事【小寺】
プラズマディスプレイ終了のお知らせ
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと
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筆者:西田宗千佳
フリージャーナリスト。1971年福井県出身。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。
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