逆さまを見てはじめて真実に近づける
また、そうした眩暈をともなう交叉的な入れ子の運動イメージは、「見る」という行為がほんらい含んでいる「目の逆説」にも通じています。じつは、地動説=太陽中心説を証明したケプラーは、同時に、知覚理論における先駆者でもあって、彼は「私たちの眼球は外界のイメージを網膜において倒立したかたちで結像している」という重大な発見をしているんです。
つまり、私たちは普段、あるがままに外界を見ている訳ではなく、必ず交叉・倒立する像の交わりを通じて、何かを見ている、ということですね。しかも、そのことに私たち自身も気づいていない。これは応用して言えば、目に映る現実や行為は逆さまにひっくり返してみることで、より本来のありように近い状態を見通すことができる、ということでもあります。たとえば、心の奥底にある願望を見るためには、自己分析などいくら重ねてもあまり意味はないんです。むしろ、外側からやってきて自らと出会ってきたもの・出会うものを見ていくとき、自己の深部というのははじめて開示される訳で、それは逆もまた然りだと。
言い方を変えれば、私たちが何かを「見ている」と思う場合、まず「見させられている」要因を考えていくとき、真実に近くなり、逆に「見させられている」と思っている場合は、自分の何がそんなに「見たがっているのか」を考えてはじめて、目は虚妄を免れえるという訳です。そして、それらの交叉・倒立が繰り返されていく過程を通じて、私たちの“見通し”は何ものにも捕らわれない状態(中心点)へと近づいていき、それが“現実”を構築しなおしていく契機となっていくんですね。
本書には、他にも常識的で、ありふれた世界に安住している私たちの“現実”を小気味よくひっくり返してくれるショートショートが幾つも入っています。どうも最近、真実と虚妄の見分けがつかなくなってきたな、とか、自分が立脚すべき現実の中心ってどこだろう? と感じている方にはぜひお勧めします。
その他の記事
「民進党代表選」期待と埋没が織りなす状況について(やまもといちろう) | |
「自由に生きる」ためのたったひとつの条件(岩崎夏海) | |
2021年は、いままで以上に「エネルギーと環境」が重大な関心事になる年に(やまもといちろう) | |
人生に「目的」なんてない–自分の「物語」を見つめるということ(家入一真) | |
細かいワザあり、iPhone7 Plus用レンズ(小寺信良) | |
生き残るための選択肢を増やそう(後編)(家入一真) | |
誰も無関係ではいられない「メディアの倫理」(小寺信良) | |
ネットも電気もない東アフリカのマダガスカルで享受する「圏外力」の楽しみ(高城剛) | |
自民党総裁選目前! 次世代有力政治家は日本をどうしようと考えているのか(やまもといちろう) | |
コーヒー立国エチオピアで知るコーヒーの事実(高城剛) | |
彼女を部屋に連れ込んでどうにかしたい時に聴きたいジャズアルバム(福島剛) | |
野菜はヘルシーフードどころか真逆の毒の塊?(高城剛) | |
やっと出会えた理想のUSBケーブル(西田宗千佳) | |
コロナとか言う国難にぶつかっているのに、総理の安倍晋三さんが一か月以上会見しない件(やまもといちろう) | |
わずか6ページの『アンパンマン』(津田大介) |