生命の持つ暗黒面をえぐりだす
スタジオジブリの大ヒット映画『風の谷のナウシカ』の原作として、宮崎駿監督自らが執筆された長編マンガです。いろんな方から「絶対に読んでほしい」と勧められ続けて十数年、先日ようやくエンジンがかかり、全7巻を読み切ることができました。
確かに、すごい作品だと思いました。
6巻までは、ジブリ映画の王道といってもいい、ほんとにわくわく楽しめる、大長編活劇といっていい内容なんです。しかし、7巻に入ると一気に風向きが変わる。生命が持つある種の暗黒面のようなものを「これでもか」とえぐりだすように、物語が二転三転していきます。
ネタばれになってしまうので詳しくは書けないのですが、そもそも「風の谷のナウシカ」って、生命を育むもっとも基礎となる環境である水と空気が猛毒によって汚された世界で展開される物語なんですよね。「風の谷」に住む人々はマスクをつけ、腐海の瘴気を吸わないよう、ほそぼそと暮らしている。ある意味で、汚された水と空気の世界と共存する人々です。その一方で、トルメキア軍の人たちのように、火炎放射機で腐海の森を焼き払い、人間の住む世界を取り戻そうとする人々もいる。
ナウシカは、そうした混沌とした世界のなかで、ある意味では「自然」あるいは「生命」を代表して戦う女神のような存在して描かれています。しかし、その世界観が、7巻あたりでがらっと変わる。世界観の前提が、根こそぎひっくり返され、問い直されてくる。
つまりそれまで人間が捉えてきた「自然」や「生命」は、もしかしたら人間本意の、人間が“美しい”とし、“清らか”と捉えてきたものに過ぎないのではないか。人間存在を、自ら進んで“地上の悪”“環境を害する悪者”と自己否定してまで守ってきた、自然、あるいは生命に対する理想的イメージをあっという間に凌駕してしまうような、けた外れな何かが生命自体の中にある、ということが予感されるようになる。
ここにきて、読者は否応なく「生命とは何か」という問いを、自らに問い返さざるを得なくなります。はっきりいって、前半のエンターテイメント性の高い物語と比べると、いろんな意味で物語が割り切れないものに変容していく7巻の読後感は悪いかもしれません。
でも、3.11以降の世界を生きる僕らは、既に現実世界で、生きる基盤が根底から覆される瞬間を垣間見ています。僕自身が、そうであったように、「今」だからこそ、この作品の真価を味わえるときが来ているのではないか、と思います。
その他の記事
|
真の映画ファンが、ピンク映画にたどりつく入口! 高校生から観れる「OP PICTURES+フェス2021」がテアトル新宿で開催中(切通理作) |
|
ビジネスマンのための時間の心理学――できる人は時間を「伸び縮み」させている(名越康文) |
|
目的がはっきりしないまま挑戦する人の脆さと凄さ(やまもといちろう) |
|
持たざるもの、という人生(小寺信良) |
|
ウクライナ情勢と呼応する「キューバ危機」再来の不安(高城剛) |
|
「不自由さ」があなたの未来を開く(鏡リュウジ) |
|
目のパーソナルトレーナーが脚光を浴びる日(高城剛) |
|
「意識高い系」が「ホンモノ」に脱皮するために必要なこと(名越康文) |
|
近年の大ヒット映画に見る「作り方」の発明(岩崎夏海) |
|
今年もウルトラデトックス・シーズンがはじまりました(高城剛) |
|
kindle unlimitedへの対応で作家の考え方を知る時代(高城剛) |
|
少ない金で豊かに暮らす–クローゼットから消費を見直せ(紀里谷和明) |
|
名越先生、ゲームをやりすぎると心に悪影響はありますか?(名越康文) |
|
「生涯未婚」の風潮は変わるか? 20代の行動変化を読む(やまもといちろう) |
|
ヘヤカツオフィス探訪#01「株式会社ピースオブケイク」前編(岩崎夏海) |











