中国政府に読ませるための「技巧」が足りなかった
びっくりした。17日正午に突然もたらされた「朝日新聞中国網」の微博アカウント(以下、「朝日新聞アカ」と略)全面削除のお知らせ。わたしがそれを知ったのは、ウェブ関係の仕事をする友人から個人的なメッセージで、「複数の微博運営サイトに朝日新聞アカを削除するよう指導があった」という情報だった。中国で国産マイクロブログを運営するサイトは主要ポータルサイトの新浪、網易、騰訊、捜狐などがあり、朝日はこれらの全てにそれぞれアカウントを開設していたが、この正午の時点でその全てが削除されてしまっていた。
その情報を受けてわたしもツイッターやフェイスブックで中国語、日本語の情報を流した。その時点で「あれ、開けないなー?」と思っていた人はいただろうが、たぶん内情を知る関係者から「正式に削除指導があった」という言質をとって流したものとしては一番早かったたはずだ。(朝日新聞社も18日に記事にしている。要会員登録:http://goo.gl/ksTqT )
日本語、中国語で流すとまずツイッターですぐに中国ユーザーたちから反応があり、数時間後には「原因はたぶん、これ」という情報が流れてきた(http://goo.gl/qYBS5 )。それによると、朝日本紙の16日社説「中国経済ーー不透明な体質にメスを」(http://goo.gl/3xovY 要会員登録)の中国語版を同紙中国語サイトに掲載したリンク(http://goo.gl/3sn6V )が原因だったのではないかという。
朝日記事のリンク先に飛んで読んでいただければわかるが、この社説は先週発表された中国の経済統計において、これまで10年間快進撃が続いてきた中国経済の成長に陰りが見えてきたことが明らかになった背景を分析し、その要因を指摘している。だが、その分析、指摘自体はわたしもさんざん中国の経済誌・紙で目にしているものと大して変わりなく、特に目立って問題になるものはない。
だが、この社説には日本の新聞社説ならよく目にする大きな落とし穴があった。それが裏目に出た形である。というのは、同社説は文中で李克強首相を名指ししており、その上で最後を、「中国政府には、問題の所在と改革の道筋、解決の見通しについて、世界に説明していく責任がある」と結んでいる。
これは日本のメディアによくある、「日本語で他国人、他国政府を戒める」文体である。いつもはそれが相手に届くはずもない日本語で書かれていることに、読みながら隔靴掻痒の思いに駆られていたのだが、朝日新聞はこれを中国語にしてしまった。もちろん執筆担当者はそこまで考えていなかっただろうし、もともと日本人読者むけの「いつもの文体」だったので考える必要もなかった。だが、それが中国語化されて中国人に読まれることが中国政府の癪に障ったのである。
上述したように社説の分析や説明には何ら新しいところはない。そして、朝日新聞がこの社説を中国語に翻訳したこと自体もなんら責められるようなことではない。逆によくやったと思う。だが、この社説の意図は中国政府に対し「〜すべきだ」と「指示」を出している。このような内容のものを中国人、いや中国政府に読ませるための「技巧」が足りず、そのまま微博に流してしまったことが失敗だったのだ。