武術研究者・甲野善紀氏のメールマガジン「風の先、風の跡――ある武術研究者の日々の気づき」に届いた、若者からの一通のメールによって始まった、哲学と宗教、人生を考える往復書簡。メールマガジン読者の間で話題となった連載をプレタポルテで公開します。
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一つの動きに、二つの自分がいる。
技のすべてに内観が伴って来た……!!
武術研究者・甲野善紀の
新たな技と術理の世界!!
武術研究家・甲野善紀の最新の技と術理を追う人気シリーズ「甲野善紀 技と術理」の最新DVD『甲野善紀 技と術理2014――内観からの展開』好評発売中! テーマソングは須藤元気氏率いるWORLDORDER「PERMANENT REVOLUTION」!
第二回:人間の運命は完璧に決まっていて、同時に完璧に自由である
科学を宗教に「引き寄せる」ことへの違和感
【田口慎也から甲野善紀へ】
ご無沙汰いたしております。京都の田口慎也です。本日は、先生が書かれている「虎落笛(メールマガジン:第11号記載)」を拝読した際、自分の中で漠然と問題意識として感じていた部分が言語化されましたので、僭越ながらそれについて書かせていただきたいと思います。
甲野先生は「虎落笛」のなかで、以下の文章を書かれています。
また、佐橋氏は「禅に体制批判の姿勢はない」と指摘し、自らはそのことに眼を向けられているような事を書かれているが、この佐橋氏を始め、多くの禅関係者が半ば無意識のうちにハマっている現代という時代の体制に迎合しているのは、「科学的立場」「科学的視点」というものに寄り添おうとしている事である。……私は、禅の関係者が、しばしば「禅は科学的で、安易に何か迷信的なことを信じる新興宗教のようなものとは、まったく違うのだ」というような意味の事を言っているのを聞いたことがある……しかし、そうした禅の、いわば宗教らしからぬ、何と言うかある種の伝統文化的立場で自らを主張するというのは、何とも卑怯な感が否めない。というのは、一昔前、曹洞宗の長老の間では良く知られていた油井真砂尼の存在などを思い出してしまうからである……
私が反応したのは、この「半ば無意識のうちにハマっている現代という時代の体制に迎合しているのは、『科学的立場』『科学的視点』というものに寄り添おうとしている事である」という部分です。
これは、私が以前洗礼を受けてクリスチャンになろうか否か、本当にのた打ち回るくらいに考えていた時期に感じ、考えていた問題点と重なるのです。甲野先生の「禅への批判」でのそれとは文脈がずれてしまいますが、それを承知で、今回の私の気づきを書かせていただこうと思います。
その当時、私は「物理学者は神を信じることが出来るのか」といった本や、クリスチャンの方が書かれた「イエスの復活を『科学的に』証明する」といった本をたくさん読み漁りました。しかし、そうした本を読んでいるとき、私は拭いようのない違和感を覚え続けていました。
それは、一見「科学と宗教」を「公平に」扱っているように見えながら、最初から「宗教」の方に軸足を置いて、そこに(いわば)都合の良いように科学を「引き付けて」書かれた内容のものばかりだったからです。
まだ20代前半の私が読んだ段階での結論ですので、読みが浅い部分もあったかとは思いますが、私はどうしてもそうした内容に心の底から共感することはできませんでした。
私は以前から、科学と宗教を「両方同時に、同じだけの深さ、エネルギーを持って追求し、それでも両者は両立するのか」ということに関心を寄せてきました。
そして、それを人生をかけて行おうとした人物の一人が、批判もありますが「宮沢賢治」だったのではないかと思うのです。であるからこそ、彼は今一番、私が関心を持つ人物の一人なのです。
「宗教は疲れて近代科学に置換され然も科学は冷く暗い」
(宮沢賢治『農民芸術概論綱要』)
「今日の歴史や地史の資料からのみ論ずるならば われらの祖先乃至はわれらに至るまで すべての信仰や特性はたゞ誤解から生じたとさへ見え しかも科学はいまだに暗く われらに自殺と自棄のみをしか保証せぬ 誰が誰よりどうだとか 誰の仕事がどうしたとか そんなことを云ってゐるひまがあるのか さあわれわれは一つになって[以下空白]」
(宮沢賢治『生徒諸君に寄せる』)
彼の「仕事」が成功しているか否かはともかく、少なくとも、彼の目指していた境地は、「我々の信仰は『科学的に』考えても矛盾するものではありません」という態度とは一線を画すものであると思うのです。
前者が「片方(いわば自らの信仰)に軸足を置いて、それに(都合の良い部分を)『引き寄せる』」態度であるのに対して、宮沢賢治は(少なくとも彼の理想は)
「どちらにも軸足を置かず、もしくは両方に平等に軸足を置いて、ある種正反対の方向のベクトルを持つ両者を『同じだけのエネルギー』を注いで追求し、それでもその2つのあいだに補助線を引き、融合し、新しい世界観を生み出すことは可能かどうか」
というものであったのではないかと思うのです。
(なお、私は森田真生さんの活動も、今後ますます展開されるであろう「懐庵」での活動も、そのようなことを追求し、実現していくことが出来るものではないか……と信じています。)
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