正しく怒る
このように、「怒る」という行為には「正しさ」がどうしても必要である。実際、世の中の怒りっぽい人々は、おしなべて「正しさ」をだいじにしている。あるいは、正しいか正しくないかということをいつも考えているような人だ。
そして、ここからが重要なのだが、実は、その「正しさ」というものこそ、とても難しい概念なのである。難しいというより、ちょっと危険な概念でもあるのだ。というのは、人は「正しさ」を間違えやすいのである。油断すると、すぐに誤った「正しさ」にとらえられてしまう。そして、誤った「正しさ」にとらえられると、怒りを暴走させやすい。そうして、収拾がつかなくなり、深甚なトラブルにまで発展する。
誤った「正しさ」を暴走させる典型的な例として、ドメスティック・バイオレンス(DV)があるだろう。DVを振るう人には、必ずといっていいほどその前提として「正しさ」がある。例えば、子供に過剰な暴力を振るう人は、それを正しい「しつけ」だと考えている。「子供が正しくない行いをしたから、それを正そう」という意識があるのだ。
ではなぜ誤った「正しさ」による怒りが暴走しやすいかというと、それが問題を解決できないからだ。実は、正しい「怒り」と誤った「怒り」を判別する簡単な方法があるのである。それは、その怒りが問題を解決したかどうか、だ。上記のDVの例でいうと、子供が問題を起こしたとき、正しく怒れれば、問題は解決する。その子供は、二度と同じような問題を起こさなくなる。しかしながら、それが誤った「正しさ」による怒りだと、問題は一向に解決されない。子供は、その問題を何度でもくり返す。そのため、もし怒ったとしてもその問題がくり返されるようなら、自分の感じている正しさは誤りだと思った方がいい。その問題の解決のされ方を見て、逆算して自分の「正しさ」の正誤を計るのである。
ただ、もちろんそうなる前に「正しさ」を見分けるに越したことはない。自分の正しさを正しく持てるようになれば、自然と怒れるようになるし、またその怒ったことによって、問題も解決できるようにもなる。
では、「正しさ」を正しく持つためにはどうすればいいか? 次回は、そのことについて論じてみたい。
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岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。
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