武術研究者・甲野善紀氏のメールマガジン「風の先、風の跡――ある武術研究者の日々の気づき」に届いた、若者からの一通のメールによって始まった、哲学と宗教、人生を考える往復書簡。メールマガジン読者の間で話題となった連載をプレタポルテで公開します。
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一つの動きに、二つの自分がいる。
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武術研究者・甲野善紀の
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信仰の二面性
【甲野善紀から田口慎也へ】
前回お手紙を頂いてから、いつの間にかかなりの日数が経ってしまいました。この間、私はヨーロッパの4ヶ国をまわって武術の指導をしたり、いくつかのイベントや講座、講習会などで様々な方と出会いました。いろいろな立場から現代という時代を考え、そして、この場で田口さんと意見交換を行なっているテーマである宗教についても随分と考えました。
特に、宗教というものの枠そのものを見直してみたりもしました。そして信仰とそれに深く関わっている人間の信念というものを、あらためて考えみた時、田口さんが「信仰者には絶対譲ることが出来ない部分がある」と書かれていた事を思い出しました。
田口さんの、信仰者の「絶対譲ることの出来ない部分」は尊重すべきだ、との御意見は、私もそれを目にした時は、田口さんに共感するところが多くありました。そして現在も、まだかなりの部分で共感しております。
ただ、なぜこんな持ってまわった言い方をするかというと、最近私は――これを信仰という範囲に収めていいかどうかは分かりませんが――人類の過去を振り返った時、様々にあった主義主張に気がついたのです。これらは宗教の教義とまではいいませんが、心理的にかなりこれに近いものとしてあった。そして、これが国家権力と結びつけば、時に恐ろしい事が起こります。ナチス・ドイツによるユダヤ人の迫害は、その代表例ですが、過去世界中で起きた人種や民族の差別は数え上げたらキリがないほどでしょう。
例えばアメリカなどは、元々アメリカ大陸に住んでいた先住民、すなわちネイティブ・アメリカンに対して、時に害獣を毒殺するような事を行ないました。『イシ―北米最後の野生インディアン』によれば、山小屋に毒入りの小麦粉をわざと置いておき、食糧不足になって、そうしたものを盗みに来るネイティブ・アメリカンを毒殺したのです。
もっとも、このような行為は「信仰者の絶対譲ることの出来ない部分」とあまり重なる感じはしないかもしれません。しかし、イギリスから渡来してきた白人が、オーストラリア大陸での先住民アボリジニに対して「白豪主義」として行なった事は、宗教の教義とも重なるような、つまりかなり無理があるとはいえ、善意にも解釈しようとすれば出来るような理由をつけて行なわれました。
その一例は、白人とアボリジニとの混血児を親元から引き離して、強制的に施設に入れて社会から隔離した事です。もちろん、それにより無数の悲劇が生まれたわけですが、この法律は驚くべきことに1962年まで公式的には存在していていました。この法によって強制的に施設に送り込まれた人々は「盗まれた世代」と呼ばれています。オーストラリア政府は2008年2月、つまり約4年前にやっと、ラッド首相が政府および国の代表として、これらの人々に公式の謝罪を行なったようです。
この「白豪主義」は、元々は素朴な優越感や嫌悪感を土台にしたものだと思いますが、そうした感情を正当化するため、まるで宗教の教義のようになっていたのだと思います。そして、その事にキリスト教は手を貸しました。「盗まれた世代」の収容施設は、キリスト教会と密接に関わっていたようです。
なぜ、こうした事に対して、善意に解釈される理由づけが出来るかというと、白人とアボリジニとの混血児は、アボリジニのコミュニティにおいても差別され、育ててもらえず遺棄される事があったので、「これを助けるため」という名目があったようです。しかし、アボリジニの母親に大切に育てられている子供の場合でも、犯罪者を摘発するように、見つけ次第強制連行するという事は、現在の我々の感覚からすれば、とてもそこに正義や善意を見つけることは難しい。
もちろん、オーストラリアの白人の中にも、内心はその行為に対する後ろめたさや、ひけめはあったのだと思います。それがあったからこそ、この法律は廃止され、政府はそうした行為をした事を公式に謝罪したのでしょう。しかし、謝罪する30年くらい前まで、その行為が100年くらいもずっと行なわれていたという事は、そうした行為の正当性を頑なに信じ、推進した人間が存在したという事です。そして、その人間にとって、その行為を行なうことは宗教的信念にも近かったのではないかと思います。

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