新製品が出ると(今週はiPadウィークでもありましたね)、ここのところ、仕事柄、筆者は必ず次のようにたずねられる。
「で、この商品、買うべきですか?」「最近新鮮味が減ってきましたが、もうこのジャンルはダメなんでしょうか」
この種のことを聞かれたら、答えるのが私の仕事なので、そりゃあもちろん、誠心誠意答える。他方で、こんなことも思うのだ。
「みんな、企業が失敗しないでここまで来た、と思うのだなあ」と。
世の中でエクセレントと言われる会社でも、カリスマと呼ばれる経営者でも、1つの成功の裏には驚くほどの失敗がある。自信満々で打ち出した商品やサービスが大失敗に終わったり、成功した製品が、実は当初「つまらないものだ」と不評であったことを忘れてしまう。
それも当然だ。誰もがうまくいったことをアピールし、失敗したことは隠そうとする。できれば忘れてほしい、と思っているのだ。企業の業績がいいうちは、成功したことにのみ注目されて「特別な会社」と言われるし、不調の時は失敗ばかりが掘り出され、「こんなに失敗をかさねてきたからダメになったのだ」と言われる。人の記憶や印象の生理とは、そういうものだ。
他方で、その製品や企業が本当に非凡である時には、一部が失敗であろうと「最終的には帳尻があって、他にない価値を生み出す」ことにつながる。本当に大きな成功につながる時には、その条件は表面からは見えづらい。それを分析して紹介するのがプロ、というものなのだろうが、なかなか簡単ではない。
筆者が数年前からなんとなく思っているのは、「みんながわかる今のルールで戦っているうちは勝てなくて、そっとルールを書き換えて別の戦いに持ち込んだ時に、企業は勝つのだな」ということだ。
2007年からこっち、ITと家電の業界は「スマートデバイスの大量生産」を背景としたルールで広がってきた。アップルやサムスンは、2010年あたりまでにこのルールを掴み、うまく波に乗って勝ち進んだ。日本で端末を作っているメーカーは、このルールに乗れなかった。そして今、中国メーカーの波によって、このルールでのゲームの旨味は減っている。
じゃあ次のルールはなにか? ヒントは「スマホの次はなにか」ではなく、「スマホを全員が持っている前提でビジネスを組み立てる」ことだ、というのが読みだ。製造も品質も体験も、そうした前提でどう組み立てるのか、という話で見ると、色々面白い視点が生まれる。
今回のメインコラムでは、その前提、前段階となる「デバイス開発のトレンド」を、商品から紐解いてみた。分析を面白くお読みいただければ幸いだ。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
2014年10月24日 Vol.008 <分析と可能性号>目次
01 論壇(西田)
「面積/重量比」から考える、スマホとタブレットの未来
02 余談(小寺)
日本人のソニーに対する視線
03 対談(小寺・西田)
今週はお休みです
04 過去記事アーカイブズ(西田)
電子書籍フォーマット「EPUB3」で本当に変わるのはなにか
05 ニュースクリップ(小寺・西田)
06 今週のおたより(小寺・西田)
コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。
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筆者:西田宗千佳
フリージャーナリスト。1971年福井県出身。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。

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