小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

「iPhoneの発売日に行列ができました」がトップニュースになる理由

※この記事は小寺信良&西田宗千佳メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」2014年11月14日 Vol.010 <バッファとバリエーション号>の冒頭です。

 

実は今週は、ちょっと大きな取材ものを入れるつもりでいた。ところが、直前に取材のスケジュールが変わったため、予定していた話題をメルマガのメインコラムにできなくなった。結果、ちょっと別の話題で展開している。とはいうものの、それはあくまで作る側の事情。お読みになるみなさんは、シンプルに今回の記事をお楽しみいただければ幸いだ。

ただ、日々記事を提供するメディアの側にいると、ネタ集めから執筆までをきちんとスケジュールに乗せて管理し、予定がぶれないようにする、ということを考えざるを得ない。予定通りに、定期的に量産することがとても大切な話にもなってくる。

その時に出てくるのが、「どういう内容になるか、アタリをつける」という発想だ。ある意味当然のことなのだが、ここに大きな落とし穴がある。

取材は想定通り進むわけではない。むしろ「話を聞いてみたら意外な事実が判明した」「自分が思っていたこととは切り口が違っていた」ということがたくさんある。その驚きをいかに記事に組み込むかが、書き手に求められる資質でもある。だが、「思ってたのと違う」を取り込むには、ある程度の手戻りが必要になる。効率は落ちるわけだ。

1人で原稿を書いている限り、泣くのは自分だけだ。むしろ「思ってたのと違った」ことに直面するのは、取材者にとって喜びであり、「キツイなー」と言いながら構成を考え直すのが日常である。

しかし、複数人のチームで作成している場合、想定との違い・手戻りはより大きなコストを生む。

経験上、こうしたことを特に嫌うのがテレビ、それも毎日やっているニュースバラエティ系の番組である。きちんとしたクオリティのものを毎日数時間放送する現場は、ただでさえ鉄火場だ。予定が狂うとたくさんの人に影響が出るため、そうしたリスクはできるかぎり避けようとする意識が生まれる。

だから、ニュースバラエティでのコメント取材では「予定通りのことを言わせよう」とする場合が多い。最初のシナリオからずれることを嫌うためである。

「~という作品のPV、独占公開」とか「~という発表会にタレントの誰々さんが登場しました」とか「iPhoneの発売日に行列ができました」というニュースが、ニュースバラエティの製作者に喜ばれるのも、同じ理由に基づく。一定の注目が集まり、予定通りにネタが進行して番組が作れるからだ。

そうしたものの価値を否定するものではない。だってビジネスだから。トラブル回避・リスク回避は重要だ。

しかし、「最初のシナリオが正しいとは限らない」以上、こういうやり方はとても危ない。夜の深い時間帯のニュース番組や、新聞などは(ご存じの通り、すべてとはほど遠いものの)、そうした危険性を理解した上で、取材者の意図と違った流れであった場合には、その違いがどこかをきちんと突っ込んでくる。本来取材とはそうあるべきなのだ。

手戻り・見込み違いのリスクを背負い込むことは、コストにつながる。社会に余裕があった頃は、そうしたコストをきちんと認めてくれていた。体力の低下をバッファのカットで補っている現在、そうしたリスクがどんどん嫌われるようになっているのは間違いない。いかにそうした部分を「必要なバッファ」として確保するか。筆者個人としても、かなり重要な課題だと、日々感じている。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2014年11月14日 Vol.010 <バッファとバリエーション号>目次

01 論壇(西田)
教育とコンピュータのジレンマ
02 余談(小寺)
これは正解、ニトリ「1人用電動リクライニングソファ」
03 対談(小寺)
アキバ発のベンチャーを仕掛けるDMM.make AKIBA(第2回)
04 過去記事アーカイブズ(西田)
セカンドライフは次世代のウェブになるか
05 ニュースクリップ(小寺・西田)
06 今週のおたより(小寺・西田)

 

12コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。

 

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筆者:西田宗千佳

フリージャーナリスト。1971年福井県出身。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。

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